用語解説


C60の構造式
 サッカーボールのような形状をした炭素原子からなる球状分子。炭素の数が60個のもの(C60=図)が一般的だが,70個(C70),76個(C76),78個(C78),96個(C96),240個(C240)からなるものも見つかっている。

 建築家のバックミンスター・フラー氏が設計したドーム建築が似た形であることから,「バッキーボール」とも呼ばれている。

 C60の場合直径は0.7~1.0nmで,炭素原子だけからなる。分子構造としては6員環と5員環からなり炭素−炭素の1重結合と2重結合が交互に存在する。つまり,π電子共役ネットワークを持つことから,電子を受け取りやすい,がん細胞を攻撃する,美白効果がある,といった様々な特徴を発現する。また,炭素−炭素の二重結合は反応性が高いことから,様々な誘導体が合成されており,燃料電池の固体電解質材料,磁石,超伝導体など多様な研究が進んでいる。

供給・開発状況
2005/09/01

《供給動向》年産40tの設備が稼動,価格は500円/g

 フラーレンのトップメーカーは現在,フロンティアカーボンである。福岡県北九州市に設置した年産40tの生産設備を稼動させた。製法は,ベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素を1000℃以上の温度で不完全燃焼させるもの。これまでのアーク炉で製造する方法(アーク法)に比べてコストダウンが可能になった。これにより,各種のフラーレンが混ざったグレードの価格は500/gまで下がった。同社は,年産1500tまでスケールアップすれば,50円/gまで下がると見る。

 このところ盛んになっているのはフラーレンの様々な誘導体の合成である。最近発見された誘導体としては,酸化フラーレンがある(図1)。フロンティアカーボンが開発したもので,フラーレンC60を酸化反応させることにより,二つの炭素原子をまたがるようにして酸素原子を付けたものだ。サンプル出荷も始まっている。この酸化フラーレンに官能基を付加する反応法も開発され,今後フラーレン分子1個に付き一つの官能基をつけることが可能になり,フラーレンの特徴を保ちながら優れた機能を発揮する材料になると期待されている。


《開発状況》スポーツ用品に採用進む


【図2】フラーレン入りのテニスラケット「NANOSPEED RQ7 MID PLUS」(ヨネックス)を使っているスロバキアのDaniela
 用途開発面では,テニスラケット,ゴルフクラブといったスポーツ用品のCFRP(炭素繊維強化プラスチック)に添加することによって衝撃強さを上げた製品が発売されている(図2)。強化の原理としては,母相に対してフラーレンを1%程度添加することによって炭素繊維同士が引き合う力を強めるためだと説明されている。過去に炭素繊維もスポーツ用品から用途開拓が始まった。そして今では航空機などに普及し,自動車への応用も射程に入れているという歴史にならい,フラーレンも普及の第一歩をスポーツ用品とし,その後,もっと量の出る用途に進出するというシナリオを描いている。

 フラーレンは特許の動向からみると応用面での検討,アイデアが先行したきらいがあり,実際の用途開拓を進めるうえでも材料面での検討がもっと必要だという認識が出てきている。

ニュース・関連リンク

理研,「フラーレンの特徴を活かせる」新誘導体を開発

(Tech-On!,7月4日)

儲かるナノテク

(日経ものづくり,2005年6月号)