LSIのコア領域に複数の電源を供給する「マルチVDD設計」や「パワー・ゲーティング(電源遮断)設計」を行う場合には,次の二つを指定しなければならない。すなわち,「電源系統をどう分割するか」,「どの領域にどの電源を供給するか」である。
従来は,次のような作業を実施することで,上記の2項目を指定していた。
- (1)電源系統(パワー・ドメイン)ごとに使用するスタンダード・セルの名前を変えて,暗黙に電源供給を表現する。
- (2)ネットリストに無理やり電源ネットを書き加える。
- (3)パワー・ドメインごとに階層設計を行う。
こうした作業を,主に物理設計段階で行ってきた。しかし,手間がかかる上に,検証手段が確立されていなかったため,設計ミスの危険性が高かった。
低電力設計のデータを記述
このような状況を改善すべく,低消費電力設計に関するデータを記述するための「パワー・フォーマット」が登場した。具体的には,2006年に米Cadence Design Systems, Inc.を中心とした非営利団体「Power Forward Initiative(PFI)」が「CPF(Common Power Format)」と呼ぶパワー・フォーマットを提案した。
また,米Synopsys, Inc.と米Mentor Graphics Corp.らが中核となり,非営利の標準化機関の米Accelleraから,「UPF(Unified Power Format)」と呼ぶパワー・フォーマットが提案された。現在,CPFは非営利の標準化機関の米Si2(Silicon Integration Initiative)が,UPFは米IEEEが管理している。
どちらのパワー・フォーマットも以下のような目的がある。
- (a)RTL(register transfer level)データやネットリストとは独立に,パワー・ドメインや電源ネットを表現する。
- (b)論理シミュレーションからレイアウト検証まで共通のデータを参照することで,手間の削減やミスの防止を狙う。
- (c)マルチVDDに必要なレベル・シフタ,電源遮断に必要なアイソレータやパワー・(電源)スイッチの挿入のルールを記述することで,それらの自動挿入を可能にする。
- (d)パワー・ドメインや電源ネットがシャット・オフ(遮断)する条件を記述することで,一部の回路がシャット・オフしている状態での論理シミュレーションを可能にする。
二つのフォーマットは基本的に同様の機能を持つが,互換性はない。