放送と同一の番組を,リアルタイムでIPネットワークを使って送信するサービスのこと。IP再送信により,現在テレビ放送で流れている番組をIPネットワーク経由でも見られるようになる。一般に,IPマルチキャスト技術の使用が前提となる。

 IP再送信は,2011年7月24日の地上アナログ放送停波後,地上デジタル放送を受信できない,いわゆる難視聴世帯への有力な対策の一つとして浮上した。総務省は2010年末までに,地上デジタル放送を直接受信できる世帯を,地上アナログ放送の視聴可能世帯の95%にする計画である。残りの5%を補う補完措置の一つとして,光ファイバなどのアクセス網に白羽の矢が立った。

 情報通信審議会による2005年7月の「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」第2次中間答申では,IP再送信について「2008年度中に,HDTV品質によって,全国で開始することを目標として,政府及び放送事業者その他の関係者が所要の取組を推進すべき」とした。

 現状では,IP再送信は著作権法ではVODサービスと同様に通信と解釈される。そのため,原作者や作曲家などの著作権者,レコード製作者と実演家の著作隣接権者と個別に契約し,許諾を事前に得る必要がある。一方,過去に難視聴対策として導入された有線放送(ケーブルテレビ)などは,著作権法では放送と解釈されるため,レコード製作者および実演家の許諾を得る必要がない。

 こうした問題に対し,文化庁の文化審議会 著作権分科会 法制問題小委員会は,IP再送信を著作権法上で有線放送と扱うことを認めるとの報告書を2006年8月にもまとめることにした。レコード製作者と実演家からの事前の許諾は不要だが,両者に報酬請求権を与えるとした。

図 IPマルチキャストを利用したIP再送信とケーブルテレビとの違い
図 IPマルチキャストを利用したIP再送信とケーブルテレビとの違い(日経エレクトロニクス2006年6月19日号より抜粋)