自動車向け無線通信の形態は,路車間通信と車車間通信に大別できる(表)。車両と路側機が情報をやりとりするのが路車間通信で,車両同士が直接情報をやりとりするのが車車間通信である。さらに,車車間通信のように車両同士が直接ではなく,路側機を介して別の車両と情報をやりとりするのを車路車間通信と呼ぶ。

 例えば,コーナーの先にある渋滞を後方車両に伝えて追突事故を防ぐアプリケーションとして,コーナーに設置したカメラを使って車両を検知し,渋滞している場合にコーナーの手前で路側機から車両に情報を配信する路車間通信を使った方法がある。このアプリケーションは車路車間通信でも車車間通信でも実現できる。車路車間通信であれば,渋滞中の車両からその状況を近くの路側機に配信し,コーナー手前に設置した路側機から後方車両に配信する。一方,車車間通信であれば,渋滞中の車両から直接,後方車両に情報を配信すればよい。このほか,将来的には歩行者と自動車との通信も実用化される可能性があるが,これは車路車間通信もしくは車車間通信と同様な通信形態になると想定できる。

 日本が2010年度に実用化する安全運転支援システムには光ビーコンをはじめ,5.8GHz帯のDSRC向けに規格化された通信プロトコル「ARIB STD-T75」や,これを車車間通信向けに変更したものが利用できそうだ。このうち,光ビーコンとARIB STD-T75は,路車間通信や車路車間通信での利用に限定される可能性が高い。車車間通信については,まずARIB STD-T75を改良したものを使うことで,他車との情報交換が始まりそうである。

 これに対して,欧米では無線LAN規格であるIEEE802.11aをベースにした5.9GHz帯のIEEE802.11pが自動車専用の無線通信として,路車間通信や車車間通信で採用されるはずだ。IEEE802.11pは現在策定中で2007年1月には仕様が固まる予定だが,同802.11aと同じく無線アクセス方式にはCSMA方式,変調方式にはOFDM方式を利用するもようである。

表 公道を使った大規模実証実験に用いる路車間通信と車車間通信
表 公道を使った大規模実証実験に用いる路車間通信と車車間通信日経エレクトロニクス2006年5月8日号より抜粋)