2013年2月に日経BP社が主催したセミナー「世界半導体サミット@東京 2013 ~クラウド&スマート時代への成長戦略」から、ルネサス エレクトロニクス 取締役執行役員常務 矢野陽一氏(肩書きは講演当時)の講演を日経BP半導体リサーチがまとめた。今回は3回連載の最終回。第1回はこちら、第2回はこちら
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 以下では、スマート社会を支える半導体への当社の取り組みを紹介したい。自動車が一つの応用セグメントとして比較的わかりやすいのに対して、スマート社会となると切り口は非常に幅広くなる。ここではまず、都市の成長という切り口から世界のトレンドを紹介する。

 世界の各地域の中でアジアに着目すると、その総人口は2025年に50億人近くに達すると予測されている。ここで興味深いのは、都市に住む人口の比率が、1980年代には27%にとどまっていたのに対し、2025年には53%にまで高まる見通しであることだ。すなわち、人口が都市に流入するという動きが明確である。結果として2025年には、人口が1000万人を超える巨大都市がアジアに数多く登場することになる。

 世界規模での都市化の動きに対応して、今後は都市を支えるインフラが強化されていく。以下では、こうした流れを受けて我々が取り組んでいる、都市インフラ向けのソリューションについて述べたい。

スマートメーター向けソリューションを用意

 まずは、電力インフラに関して。ここではスマートグリッドが普及する見通しであり、家庭側の端末としてスマートメーターが重要になる。従来の電力システムが電力のネットワークから構成されるのに対し、スマートグリッドでは、データ通信のネットワークを含む形で電力のネットワークを構成していくことになる。そのネットワークの中央では、クラウド型のコンピュータ・システムや制御システムが使われることになるだろう。

 電力メーターの現在の世界市場は17億5000万台といわれている。このうち、通信機能によって電力消費を制御できるスマートメーター・タイプの比率は現状では11%にとどまるとされる。今後、その比率は高まる見通しであり、特に海外でスマートメーター市場の大きな成長が見込まれている。我々はこうした市場成長を見越して、スマートメーター向けのソリューションを用意している(図1)。

図1●スマートメータ向けソリューション
図1●スマートメータ向けソリューション

 スマートメーターは、計量ユニットと通信ユニットの二つから成る。このうち、計量ユニットは電力消費量をモニターする役割を担うため、高精度なアナログ・インタフェースが求められる。電力を測定するために大きな電力を消費しては無意味なので、低消費電力であることも重要だ。当社では、これらの要件を満たす計量ユニット向けマイコンを各種用意している。

 通信ユニットは、計量ユニットで測定したデータを通信する役割を担う。ここでは世界のさまざまな種類の通信プロトロコルをサポートしなければならないため、多様なソリューションを用意している。

 このように、電力メーターは非常にバリエーションが豊富であり、我々は日本や中国、欧米などの市場に向けて、さまざまな用途と通信規格に対応するスマートメーター向けソリューションを開発中だ。

インバータ家電が新興国にも普及へ

 次に、家庭内に目を移してみると、ここでも非常に多くのマイコンが使われている。日本では1960年代以降、洗濯機や冷蔵庫、エアコンなどの普及が急速に進んだ。これと同じ動きが今、中国やブラジル、インドネシアなどで起こっている。洗濯機や冷蔵庫はこれらの地域でもかなり普及しているが、エアコンなどにはまだ伸びしろがある。こうした白物家電で使われるのが、いわゆるインバータ家電だ。白物家電は国内メーカーが強い分野ということもあり、我々はインバータを搭載した家電(インバータ家電)の市場が今後も大きく伸びると予測して、この分野に力を入れていく考えである。

 モータの世界出荷個数は現状で年間100億個ほどだが、マイコンで制御しているものの比率はまだ低い。インバータ制御しているものの比率はさらに落ちる。従って、マイコンが欠かせないインバータ制御タイプのモータが今後大きく伸びる見通しである。

 インバータ制御を導入することで得られる省エネ効果は大きい。例えばエアコンでは、インバータを用いたきめ細かい動作制御によって30%の省エネ効果が得られると試算されている。インバータ制御のエアコンは日本では既に当たり前の存在だが、世界的にはまだこれから普及していく段階にある。

 当社では長年にわたって、インバータ・モータ向けのソリューションを提供している。これはマイコンとパワー半導体を最適に組み合わせ、インバータ制御の効率を高めるというものだ(図2)。我々はモータ向けマイコンで世界首位の実績を持つが、この領域ではリファレンスの提供が重視される。そこで、当社ではマイコンによるインバータ・モータの制御をソリューションとして提供している。マイコンのモータ制御アルゴリズムやパラメータが適切であるかどうかを、インバータの出力波形からリアルタイムに確認できる波形解析表示ツールはその一例だ(図3)。

図2●インバータ・モータ向けソリューション提供
図2●インバータ・モータ向けソリューション提供

図3●マイコンによるインバータモータ制御
図3●マイコンによるインバータモータ制御

 モータやインバータは各国にさまざまな種類があることから、我々はそれらのバリエーションに応えるソリューションを開発している。ここでは、マイコンとパワー半導体に加えて、ソフトウエアまでを含めてサポートするという戦略を採っている(図4)。こうした水準にまでソリューション力を高めることを、当社では「プラットフォーム型ソリューション」と呼ぶ。顧客の開発期間(time to market)をできる限り短くするという観点からは、こうした取り組みが重要になる。

図4●インバータ・モータ市場に向けたビジネス展開
図4●インバータ・モータ市場に向けたビジネス展開

タッチ・パネルにも大きな商機

 この他の成長市場として当社が注目しているものに、タッチ・パネルがある。今後、タッチ・パネルはさまざまな家電に広く浸透していくだろう。当社子会社のルネサスエスピードライバ(RSP)は2013年1月に、タッチ機能と液晶ドライバを統合したICをモバイル機器向けに発表した(図5)。

図5●モバイル向けタッチ機能とLCDドライバの統合化
図5●モバイル向けタッチ機能とLCDドライバの統合化

 家電や産業機器では、タッチ・キー式やスライダー式、ホイール式など、多様なタッチ・インタフェースが使われるようになってきた。これらをサポートするために当社は「タッチキー・マイコン」を製品化した(図6)。これはタッチ・コントロール・ユニットを内蔵したマイコンで、さまざまなタッチ・インタフェースをサポートできる。どれだけの種類のインタフェースをサポートするかに合わせて、チャネル数の多いものから少ないものまでを用意している。

図6●家電や産業向けタッチキーマイコンの製品展開
図6●家電や産業向けタッチキーマイコンの製品展開

 このタッチキー・マイコンはいわばアナログ回路の塊であり、さまざまな雑音や感度の制御をしなければならないため、かなり工夫をこらした回路を搭載している。ここではタッチ感度の微妙な調整が必要になることから、評価・スタータキットやタッチ感度調整ツールを用意している。このマイコンの商談は右肩上がりで増えている。