2013年2月に日経BP社が主催したセミナー「世界半導体サミット@東京 2013 ~クラウド&スマート時代への成長戦略」から、ルネサス エレクトロニクス 取締役執行役員常務 矢野陽一氏(肩書きは講演当時)の講演を日経BP半導体リサーチがまとめた。今回は3回連載の第2回。第1回はこちら
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  自動車に多くのマイコンや電子制御ユニット(ECU)が搭載されるようになったことで、それらを実装するスペースに余裕がなくなってきている。「自動車はサイズが大きいから、電子機器を収めるスペースも豊富にある」と思われがちだが、実際にはそうではない。自動車では、居住性を高めたり、軽量化したりすることが重視されるため、ECUは極力小さくしなければならない。実際、車載ECUでは親指の先ほどの大きさしかないものも少なくない。マイコン・メーカーとしては、ECUの寸法をできる限り小さくし、しかも低電力に設計できるようなマイコンを提供することが欠かせなくなっている。

 そこで我々は以前から、マイコンとアナログ半導体を同一パッケージに収め、省スペース化する取り組みを進めてきた(図1)。ドアやワイパー、シートのようにスペースが限られている箇所ではこの手法がとりわけ有効である。ドアを例に取れば、一見寸法は大きいものの、ガラスや衝撃を和らげる部材が入っている箇所が設計上優先されるため、電子機器を収めるスペースはほとんどない。

図1●ECUの省スペース/省電力化への取り組み
図1●ECUの省スペース/省電力化への取り組み

HVやEV向けソリューションを用意

 今後の市場拡大が見込まれるハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)向けのマイコンに関しても、我々はさまざまな製品群を用意している。例えば、HEVやEVに欠かせない製品として、モータ制御用マイコンがある。ここにはモータ制御用のIPコアや演算回路に加えて、回転角をデジタル・データに変換するためのアナログ回路などを集積している(図2)。車載モータは非常に小型でありながら出力が大きく、精緻な制御が求められるため、それに対応できるマイコンを用意している。車載モータでは小型化や回転数の向上が進んでおり、これに対応するマイコンにも高度な演算能力が必要になる。こうした点で、モータ制御用マイコンへの性能要求はかなり高い。

図2●ハイブリッド/EV車向けモータ制御技術
図2●ハイブリッド/EV車向けモータ制御技術

 HEVやEVに関する取り組みとして、我々は2013年1月の「カー・エレクトロニクス展」で、レアアースを使わないモータ(SRモータ)向けのインバータ制御のデモンストレーションを行った。当社のマイコンとパワー半導体を使い、さらに複数社の協力を得て実現したものである。こうした次世代モータ向けのマイコンに関しても、我々は着実に開発を進めていく。

電動二輪車にも商機

 自動車市場は今後、世界規模で大きな成長を遂げていく見通しである。日経BPコンサルティングによる2025年までの市場予測によれば、人口100人当たりの自動車保有台数は新興国において急速に伸びる見通しだ(図3)。現時点で、米国は人口100人当たりの自動車保有台数が約80台、フランスやドイツ、日本などは60台前後であり、いずれもこれからの伸びには期待しにくい。一方、ロシアやブラジル、中国、インドなどでは、人口100人当たりの自動車保有台数に大きな伸びしろがある。

図3●100人あたりの自動車保有台数の実績・予測
図3●100人あたりの自動車保有台数の実績・予測

 我々はこうした世界のさまざまな地域、さまざまなグレードの自動車に対応するソリューションを提供していく。このうち特徴のあるものの一つに、電動二輪車(電動バイク)向けのソリューションがある。電動二輪車は、マイコンの応用先としては自動車の陰に隠れがちである。だが、実際にはアジアを中心に非常に多くの台数が保有されており、マイコン・メーカーにとって大きな市場機会が存在する。

 電動二輪車向け事業には、開発から量産までの期間が短いことや、ソリューション型の製品が求められることなどの特徴がある。我々にとっては、ある市場向けにソリューション製品を開発すれば、それをさまざまな国や地域に展開できるというメリットがある。当社は既に、エンジンやメーター、ライティングなどの制御用のターンキー・ソリューションを、新興国の電動二輪車向けに用意している。

 今後、グローバル市場を開拓していく上では、パートナーとの連携が重要になる。我々はマイコンの開発ツールやソフトウエア、システムなどに関して多くのサード・パーティーやパートナーと協業している。パートナーは現時点で550社ほど存在し、その過半数が海外企業だ。こうしたエコシステムこそが、我々がグローバルに事業を伸ばしていくための基盤になると考えている。