2013年2月に日経BP社が主催したセミナー「世界半導体サミット@東京 2013 ~クラウド&スマート時代への成長戦略」から、ルネサス エレクトロニクス 取締役執行役員常務 矢野陽一氏(肩書きは講演当時)の講演を日経BP半導体リサーチがまとめた。今回から3回にわたって紹介する。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ルネサス エレクトロニクスは2010年の会社設立以来、スマート社会に向けたソリューションを提供することを、重要なテーマに掲げてきた。ここでいうスマート社会とは、自動車や産業機器、コミュニケーション、ヘルスケアなどさまざまな技術分野の「スマート化」によって達成される。人間に優しく、そして環境にも優しい社会だ。
スマート社会とは抽象的な言葉だが、各分野の実際のアプリケーションを考えてみると、実に幅広い応用があることがわかる。それらの応用に向けたソリューションを作り、「半導体のイノベーション」を「社会のイノベーション」につなげていくこと。これが当社の目指す方向である(図1)。そしてこれらあらゆる応用において、マイコンは不可欠な存在だと考えている。
現在、マイコンの世界市場は数量ベースで約140億個に達している(図2)。100億個に達してからわずか3年ほどで140億個に到達しており、マイコンが非常に幅広い応用に使われていることがわかる。特に2009~2011年には、世界的に省エネ需要が高まったことを受けて、省エネ型家電や電力メーター、低燃費車などに向けたマイコンの市場が大きく伸びた。
これに伴い、マイコンの単価は低下している。価格が下がることで応用が広がり、応用が広がることで出荷数量が伸びるという良好な循環がここにはある。
そうした中、我々はマイコンで高い市場シェアを獲得しており、今後も全社の中核事業として取り組んでいく考えである。以下では、マイコンのいくつかの応用分野ごとに、当社の取り組みを紹介したい。大きくは(1)自動車向けと(2)スマート社会向けに分けて紹介する。
マイコンの需要はこれからも大きく伸びる
まずは、自動車向けマイコンについて。自動車はマイコンの最大の応用セグメントとなっており、最近の自動車には多数のマイコンが搭載されている。高級車では1台当たり50~100個のマイコンが使われている。ここにきて、自律走行などの先進技術を搭載した自動車も提案され始めた。将来、「自分で考えて自ら行動する」というところまで技術が進めば、自動車はもはや「走るロボット」のような存在になるだろう。
自動車向けマイコン市場において、我々は42%の市場シェアを獲得している。一言で自動車といっても、マイコンの応用範囲は実に幅広い。エンジンやトランスミッションなど、「走る」「曲がる」「止まる」に属する応用に加えて、エアバッグやボディ、オーディオ、メーターなどの応用がある。そして、それらの応用ごとにマイコンへの要求は少しずつ異なる。
調査会社の予測によれば、車載マイコンの世界出荷個数は、2011年には約17億個だったのに対し、2019年には35億個と倍増する見通しである。数量ベースで最も高い市場成長が見込まれるのは中国向けだ。車載マイコンの世界出荷個数は、この予測よりもいくぶん速いペースで伸びる可能性があるのではないかと思う。
自動車の世界販売台数は2011年時点で7000万台強。これが2018年には1億台近くにまで伸びると予測されている。特に中国や新興国の市場が伸びる見込みである。
これら二つの予測から、自動車1台当たりに搭載されるマイコンの数量を試算することができる(図3)。その絶対値の多寡はさておき、先進国向けの高級車と中国・新興国向けの低コスト車のいずれにおいても、マイコン搭載個数は今後、右肩上がりに増える見通しだ。
マイコンへの技術要求が高まる
こうした状況においては、マイコンへの技術的な要求は高まり、克服すべき課題が新たに出てくる。その第1のポイントは、マイコンが車載ネットワークを介して互いにつながっているという点である。
車載マイコンはどれ一つとして単独で動作しているものはない。ブレーキを踏むとシャシー制御やエンジン制御に連動するように、自動車の内部はすべてネットワークで接続されている。従って、このネットワークを低電力で動作させることが自動車全体の省エネにつながる。ここに向けては、自動車に数多く搭載されるマイコンが低電力であることが重要な条件だ。
当社は2012年9月に、40nm世代の車載マイコン「RH850/F1x」を発表した(図4)。これはボディ制御向けのマイコンで、車載マイコンの中では1台当たり最も多く使われる種類のものである。
RH850/F1xの特徴は、第1に従来比1/3という低い消費電力を実現したことだ。第2に、混載メモリ容量を従来比4倍、通信用チャネル数を同2倍にそれぞれ増やした。車載マイコン用ソフトウエアの複雑化などに対応するためである。我々は今後、RH850/F1xを皮切りに各種の車載マイコンを40nm技術で開発していく。