ケーブルテレビ統括会社のジュピターテレコム(J:COM)は2010年4月16日の午前10時,3次元(3D)映像で制作した映画作品などを,ケーブルテレビの加入者にVOD(video on-demand)で配信するサービスを開始した。テレビに向けて国内の放送局が3D映像を定常的に放送または配信するのは,日本BS放送(BS11)の3D放送に次いで2局めとなる。

 現時点で,このVODに対応したテレビは韓国Hyundai IT Japan Corp.の製品のみ。ただし,1週間後の4月23日には,パナソニックが3D対応のPDPテレビを日本国内で発売する(関連記事)。「ケーブル局のショールームなどでは,一般発売に先駆けて入手したパナソニックの3DテレビでこのVODのデモをしている」(J:COM)。

「3DはBlu-ray Discがなくても視聴できる」

 J:COMには,3D映像の配信を同社のVODサービスのテコ入れに使いたい狙いがある。VOD自体は10年以上以前からあるサービスながら,利用者がそれほど増えていないのが現状だった。J:COMは,「HDDレコーダが普及してきたことで,ユーザーが蓄積された映像の視聴に慣れてきた。VODはむしろこれから大きな可能性を秘めている」と見る。

 加えて,同社にはBlu-ray Disc(BD)対抗という狙いも見え隠れする。フルHDの解像度で3D映画作品をテレビで見るには,3D対応のBDプレーヤと,作品の3D版BDの発売を待つしかなかったが,今回のサービスを利用すれば,BDがなくても3D映画作品を一定の解像度で視聴できるためだ。J:COMのVODは,早送りや巻き戻しができ,HDDプレーヤの操作感覚で映像を見られる。「コンテンツがBDプレーヤにあるか,ネットワーク上のサーバーにあるかはユーザーには重要でない」(同社)。

課題は解像度の低下

 ただし,BDと対抗するとなると課題もある。3D映像の解像度だ。J:COMは,「サイド・バイ・サイド」と呼ぶ方式で,左目用の映像と右目用の映像を多重化し,3D映像を配信する。この方式は,BS11がデジタル放送としては世界で初めて採用したもの。具体的には,左目用と右目用の映像の計2フレームをそれぞれ水平方向に圧縮し,従来の映像の1フレーム分に収めて送信する。圧縮した映像を受信したテレビは,フレームの中から左目用と右目用の映像を分離し,水平方向を伸張してから3D映像として表示する。この方式の特徴は,3D映像を送受信するにあたって,放送の中継機器やネットワーク,そしてケーブルモデムやセット・トップボックス(STB)などを変更する必要がないという点。ただし,テレビだけはサイド・バイ・サイドに対応した3Dテレビを用意する必要がある。

 課題というのは,映像を圧縮する際に情報が失われるため,一般的なサイド・バイ・サイドの技術では映像の解像度が2D映像に比べて約1/2に低下することである。「3Dでは,VODでの伝送帯域を2Dの場合よりも広げるなどして映像の劣化を抑えている。実際,フルHDとの違いはそれほど目立たない」(J:COM)。こうした対処は,2010年夏にやはり3D映像の配信サービスを始めるスカパーJSATも採用する方針だ。

 サイド・バイ・サイドは,世界中の放送事業者が3D放送/配信に採用しつつある。ただし最近は,同じサイド・バイ・サイド方式ながら,圧縮・伸張時に,解像度の劣化がより少ない独自技術がいくつか開発され,放送事業者やテレビ・メーカーの採用を競っている(詳細は,『日経エレクトロニクス』2010年4月19日号の「世界で始まる3D放送,業界標準巡る争い激化」で解説しています)。ただし,それぞれが独自方式だけに,今後,放送間や3Dテレビ間の互換性に課題が出てくる可能性もある。