2005年ごろに始まった今回の3D映像ブームが,いよいよ放送にまで押し寄せてきた。
1890年代からの動画の進化,つまりサイレントからトーキー,白黒テレビへの放送,カラー放送,デジタル放送の次のステップとして, 3Dテレビに向けた3D映像の放送や配信サービスが本格的に始まろうとしている。
ただし,その実態は標準規格がなく,指揮者がいないオーケストラのようだ。放送/配信の方式に互換性はあるのか,標準化は果たして進むのか,を探っていく。

3D放送の中でも進化は続く

 「以前と違うのは,3次元(3D)テレビが標準的に売り出され,3D放送を見る環境が整いつつあること。ようやく3D放送と3Dテレビが両輪で回り始めた」(日本BS放送(BS11) 編成・制作局 技術部長の遠藤寛氏)。

 BS11は2007年12月に世界で初めて,3D放送をほぼ定常的に実施し始めた放送事業者。これまでは孤軍奮闘に近かったが,2010年になって状況が一転した。同社が採用した方式で3D映像の放送や配信サービスを実施する放送局が世界中で急増し,対応する3Dテレビも各メーカーから発売され始めた。

 BS11が採用した3D映像の放送方式は「サイド・バイ・サイド」と呼ばれる。これまで主流だった放送データの符号化方式MPEG-2との互換性が高く,現状だけから考えると3D放送の事実上の標準に近づきつつある。

 ただし,これが3D放送の本当の標準になるかどうかは不透明だ。理由はいくつかある。いずれも3D映像の今後の進化を考えると,現行のサイド・バイ・サイドは通過点にすぎないことに起因する。

 具体的には,(1)現行のサイド・バイ・サイドはフルHD表示できないなど解像度や3D映像の自然さという点で限界がある,(2)サイド・バイ・サイドにはさまざまな「方言」があるため,3D放送と3Dテレビの間で互換性が保証されない可能性がある,(3)ITU(国際電気通信連合)などの標準化機関は,MPEG-2とは別のH.264に基づく3D放送の方式を標準化しようと活動している,といった点である。つまり,3D放送方式の標準化に向けた動きは,多くの放送事業者やテレビ・メーカーが3D放送対応を打ち出したこれからが本番なのである。

RealD方式が業界を席巻

 現在,世界中で始まろうとしている3D放送は,“ゲリラ的”と評されても差し支えないだろう。これらのほとんどで,独自の放送方式を用いているからだ。テレビ・メーカー側にもすべての3D放送に対応できるような取り決めはなく,放送との互換性は,十分には担保されていない状態である。しかも,標準化に向けて3D放送関連企業がまとまって行動しているわけではない。「3D放送」という一種のブームに乗り遅れまいという意識で精いっぱいといえる。

『日経エレクトロニクス』2010年4月19日号より一部掲載

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