産業動向関連ニュースで2009年に最も多く読まれたのは,1月下旬にソニーが開いた記者会見のもようを伝える記事だった。業績の急激な落ち込みに応じて打ち出したリストラ策の意図や今後の見通しを説明したものである。この記事が象徴するように,2008年後半からの景気悪化で,電機・自動車分野の日本の大手メーカーは大打撃を食らった。記事ランキングの10位内には,各社の惨状を示す暗い話題が並んでいる。3位にインクスの倒産を伝える記事,5位には赤字に終わったトヨタの2008年度第3四半期決算の記事,6位はシャープの液晶工場の中国企業への売却といった具合だ。

▼ 2009年「産業動向」記事ランキング

順位記事タイトル日付
1「技術者のモチベーションが下がるのでは?」「なぜテレビ事業は黒字化できない?」---ソニーのトップ3への質疑応答1/23
2「今のホンダに足りないことは?」「伊東新社長を一言で表現するとどんな人物か」---ホンダ新旧社長への質疑応答2/23
3インクスが倒産,自動車業界の受注減小で2/26
4【太陽電池展】Konarka社,「完全に透明な太陽電池」を2009年末に出荷へ2/25
5「年内に市場が上向くことを期待」「正規社員の雇用は守る」---トヨタ自動車決算発表の質疑応答から2/6
6シャープが南京の液晶事業会社から液晶パネル生産プロジェクトを受注,亀山第1工場を売却《訂正あり》8/31
71位トヨタ,2位デンソー,3位ホンダ---パテント・リザルトの業種別特許資産規模ランキングで10/29
8ソニー,液晶テレビの設計人員を30%削減1/22
9【決算】「市場が止まった」,キヤノンの1~3月期は赤字転落も1/28
10【決算】Samsungは赤字転落,DRAMも液晶も市況回復は2009年下期と予測1/23

(集計期間:2009年1月1日~12月15日)

 この状況を打開するために,2009年には経営トップの刷新も進んだ。ランキング2位は,ホンダの新社長に決まった伊東孝紳氏のお披露目会見の記事である。このほかソニーは冒頭の記事から1カ月後に,会長兼CEOのHoward Stringer氏が社長を兼務し,4人の若手役員を配した体制を発表日立製作所では川村隆氏トヨタ自動車では豊田章男氏東芝では佐々木則夫氏富士通では間塚道義氏が,それぞれ新社長に就任した。8月の総選挙を経て実現した政権交代とあいまって,新しい時代の息吹を感じさせる。

 ただし,新たな経営陣の手腕が真価を問われるのはこれからである。各社の業績悪化の引き金を引いたのは米国発の金融危機だが,その奥底には需要と供給の歴史的な変化がある。いわゆるBRICs(Brazil,Russia,India,China)をはじめとする新興諸国が,製造拠点並びに消費市場の両面で今後巨大な存在になるのは確実だ。エレクトロニクス業界では,Google社Apple社といったサービスまで押さえる企業や,台湾Hon Hai Precision Industry Co.,Ltd.などの巨大EMS企業の存在感がますます強大になっている。自動車の電動化への移行は,新興勢力に追い風になる可能性がある。こうした時代の変化に応じて,日本企業も変わって行かざるを得ないだろう。その舵取りに失敗したら,来月から始まる2010年代が,バブル経済崩壊後の「失われた10年」をも上回る厳しい時代になっても不思議はない。