前回に引き続き,Google社の携帯電話機向けソフトウエア「Android」が,多くの企業を引きつけた理由を考察する。NTTドコモやKDDIなど,関連企業の6社の生の声も併せて紹介する。(以下の本文は,『日経エレクトロニクス』,2007年12月17日号,pp.53-56から転載しました。内容は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

 Androidの魅力は,端末を安価に開発しやすいことだけではない。NTTドコモとKDDIという日本の2大事業者がOHAに参加した理由は,これとは異なる。両社が期待するのは,最近になって日本市場に漂う閉塞感の打破である。

 世界の中で最も多機能化が進んだといえる日本の携帯電話機は,ここに来て一つの踊り場を迎えている。それを端的に表すのがNTTドコモの最新機種「905iシリーズ」である。この機種ではワンセグ受信が標準になり,これまで提案されてきたほぼすべての機能を備える「全部入り」端末になった。ところがその先が見えない。NTTドコモもKDDIも,ユーザーを魅了する次の一手を考えあぐねている。「ケータイは常に,『新しいもの』,『ガジェット』として興味の対象でありつづけたい。しかし最近,なかなか新しいものを出せずにいる。そろそろ,これまでのやり方では限界かなという気が僕らもしていた」(KDDI コンシューマ商品企画本部 プロダクト企画部 商品戦略グループリーダー 課長の中馬和彦氏)。

 Androidは彼らの悩みに一つの解を与えることができる。インターネット上のサービスとの緊密な連携である。いわゆるフルブラウザーの搭載が当たり前になってきた日本の携帯電話機では,インターネット上のサービスをブラウザー経由で使うことはできる。しかしそれだけでは携帯電話機ユーザーの要望に十分応えられない可能性がある。携帯電話機ユーザーの多くは必ずしもブラウザーの扱いに慣れていない上,携帯電話機の小さな画面ではパソコンと同様な使い勝手の実現が難しいからである。

 この問題を解く指針を与えるのは米Apple Inc.のiPhoneだろう。この製品はフルブラウザーを載せているにもかかわらず,「Google Maps」や「YouTube」といったGoogle社のサービスに直接アクセスして携帯電話機でも使いやすくするアプリケーション・ソフトウエアを組み込んでいる。Google社がAndroid上でこのようなソフトウエアを提供するのは必至である。

 Google社の視野は,自社で提供するサービスとの連携を超えている。Androidは,サーバー上で動作するソフトウエアの開発者が,携帯電話機用アプリケーション・ソフトウエアを作成しやすい環境をつくり出した。例えば「Dalvik VM」と呼ぶ仮想マシンで利用できるクラス・ライブラリはサーバーなどで使われるJavaの開発・実行基盤「Java SE」に類似している。インターネット上の多くのサービス事業者が,連係して動作するソフトウエアをAndroid上で開発するのはほぼ確実だ