素早い検査のワケ

 QCに配属された白さんは,先輩の検査員から検査方法を教えてもらい,一つひとつ覚えていきます。検査装置に必要な配線を施し,電源を入れて,操作ボタンを押しては表示パネルを監視する…。先週まで担当していた生産ラインでの組み付け作業よりも複雑な仕事をこなすことが求められますが,QCに昇格したというプライドと充実感が高いモチベーションを白さんに与え,必死にこなしていきました。

 この中国工場で造っていたのは個人向けの電子機器でした。成長市場にあったこの製品は,生産量が日ごとに増えていました。それでも,当初は生産ラインの管理者の頑張りなどで,大量に生産する割に非常に低い不良率に抑えていました。ところが,生産量がある水準を超えると,次第に不良率が上昇していきました。当然,こうした事態をできる限り早く察知し,改善を促すことがQCに所属する作業員に求められる大切な役割です。

 ところが,結論から先に言うと,白さんはその役割を放り出してしまいました。白さんがQCに配属されて2カ月がたったころのことです。QCでベテランの作業員が1人退職し,補充として新しい作業員が入ってきました。白さんはこの作業員と2人で,ある工程の検査を担当することになりました。

 生産ラインを流れる製品を2人で交互に1個ずつ検査していくこの工程では,一方の作業員の検査が遅れれば,検査台には次々と検査待ちの製品が積まれていくことになります。検査が遅れていることを見て,当初はQAの作業員や生産ラインの班長が,検査台にあふれた製品を生産ラインの横に置いた通い箱の中に移してくれていました。しかし,彼らも担当する仕事がたくさんあり,いつも余裕があるとは限りません。そのうち,検査待ちの製品が工程にあふれ,検査スペースまで侵食するようになりました。そして,検査スペースがなくなったころ,白さんは禁じ手を繰り出しました。

「ええい,流しちゃえ!」

 こともあろうに,白さんは勝手に「間引き検査」を始めてしまいました。白さんたちに与えられたのは,あくまでも全数検査を行う工程です。白さんは検査が間に合わなくなった製品を検査待ちの製品として扱わず,そのまま次の工程に流し始めたのでした。当然ですが,検査台にうずたかく積まれた検査待ちの製品はみるみるうちに減っていきました。間もなく,検査待ちの製品はゼロになりました。

 こうして検査工程は実にスムーズに流れるようになりました。味をしめた白さんは,担当する検査工程が変わるたびに,この禁じ手を繰り出していきました。白さんは管理者から検査作業を効率よくこなす作業員として評価されていきました。

 その後,この製品が客先でトラブルを起こし,大きなクレームと損害賠償を受けることになったのは言うまでもありません。

 振り返ると,白さんたちの検査作業が遅れ始めた時点で,管理者は問題に素早く気付いて対策を施すべきでした。しかし,個々の作業員が実際にどのような作業をしているかについては,完全には見抜けないことがあります。こうした中で,必要な仕事は確実に,かつ手早く処理する作業員もいれば,今回の白さんのように勝手な判断で手抜きを行う作業員もいます。日本人の管理者は,作業員の要領の良さだけで評価せず,作業員が勝手な判断や手抜きを行っていないかどうかに注意を払う必要があります。(次回に続く

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