「日経マーケット・アクセス」の試算によると,2012年までの半導体投資はNAND型フラッシュ・メモリ向けがけん引する(図)。パソコンに本格的に搭載されるからだ。

 2007年5月,パソコン・メーカー各社はNAND型フラッシュ・メモリを搭載したパソコンを発売した。現在のところ1kgを切る軽量ノート型が中心だ。夏にはさらに主要パソコン・メーカーはすべてラインナップに加える見通し。ただし,まだハード・ディスク装置(HDD)搭載パソコンに比べて価格が高い。64Gバイト・モデルで比較すると10万円以上高くなる。

 これまでのNAND型フラッシュ・メモリの価格推移を延長すると,2010年には128Gバイトが100米ドル以下になる。そうなれば,HDD搭載機より数千円の費用負担増で,ソフト起動時間を大幅に短縮でき,耐衝撃性に強く,省電力な100Gバイト・クラスの記憶装置を搭載したパソコンが実現できる。ようやくNAND型フラッシュ・メモリ搭載パソコンの普及が飛躍的に進むだろう。

 その時に,NAND型フラッシュ・メモリ・メーカーは,設計ルールを40nmまで微細化すると同時に,多値技術の信頼性を上げて1チップで32Gビット(4Gバイト)を実現していることが求められる。そして,それまではメモリ・カードや携帯電話機で,単価下落ペースを落とすことなく,ビット需要を喚起するビジネス・モデルを続けていく必要がある。


図●IC向けウエハー処理能力必要量(2007年~2012年予測)

NAND型フラッシュの容量需要は2012年までに25倍

 パソコン向けNAND型フラッシュ・メモリ需要を試算する。現在のパソコン出荷台数の伸びから推定すると,2010年の世界のパソコン出荷台数は3億台を超える。控えめに見て,このうち20%がNAND型フラッシュ・メモリ搭載パソコンになるとすると,その数は6000万台に達し,NAND型フラッシュ・メモリのビット需要は現在のメモリ・カード用途の10倍以上になる。もちろん,2010年までにはメモリ・カードやUSBスティック,携帯型音楽プレーヤなどの用途でもビット需要は拡大する。その結果,2010年には2006年の約10倍,2012年には約25倍に拡大する見通しだ。金額ベースでは2012年に2006年の倍程度になる。

 1990年代に半導体の設備投資をけん引したのはDRAMやCPUなどのパソコン向けICだった。それが2000年ごろから,携帯電話機,デジタル家電向けICがその座を奪った。再び半導体メーカーの設備投資はパソコン向けICが原動力になる。

 本シリーズ第4回で,韓国Samsung Electronics Co., Ltd.と韓国Hynix Semiconductor Inc.の強気過ぎる半導体投資について述べた。その背景には,パソコン向けNAND型フラッシュ・メモリに期待している両社が,この需要が拡大する前にシェアを奪っておきたい思惑がある。ここ2~3年は厳しくとも,HDDをNAND型フラッシュ・メモリが代替すれば,問題は一気に片付くのだ。ただ,設計ルール40nmが主戦場になっているときに,大量にある200mmウエハー対応ラインをどうするかという問題は残る。