DRAM価格の低下を受けて2007年5月に韓国Samsung Electronics Co., Ltd.が2007年後半の半導体設備投資の一部を抑制した。韓国Hynix Semiconductor Inc.も投資に慎重で,今後の資金調達の状況によっては投資を縮小するだろう。台湾のDRAMメーカーはまだ投資に対して積極的な姿勢を崩していないが,DRAM価格がこのまま低迷すれば,台湾メーカーも投資を抑制せざるを得ない。

 SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)の2007年3月の発表によると,2006年の世界の半導体製造装置市場は対前年比23%増の404億7000万米ドルと過去2番目の規模だった(Tech-On!関連記事)。そして,2007年に入っても半導体メーカーの投資意欲は続いていた。おう盛な投資の背景には,DRAMの収益向上とNAND型フラッシュ・メモリの需要増加があった。

NAND型フラッシュ・メモリ向けは2.7倍に

 設備投資の中心である300mmウエハー対応生産ラインのウエハー投入量の増加分を見ると,DRAMやNAND型フラッシュ・メモリなどのメモリ向けがけん引しているのがわかる(図)。DRAM向けもNAND型フラッシュ・メモリ向けも韓国メーカーの投入量も年々,増加分が増えている。DRAMは2007年末の投入量が前年同期比54.1%増,NAND型フラッシュ・メモリは同166.7%増,韓国メーカーは同67.1%増になる見通し。チップ・サイズを縮小することで生産容量が投入面積以上に増加することも合わせて考えると,かなり強気な投資だ。


図●300mmウエハーの品種別の増分(2003年~2006年実績,2007年予測)
各年末の月産投入量の差。2003年は2003年末の投入量。これは,韓国メーカーが投資にブレーキを踏む前の2007年4月時点の半導体メーカーの投資計画で示した。韓国メーカーは市況によってDRAMとNAND型フラッシュ・メモリを生産し分けているので,品種で分類せずに韓国メーカーとしてまとめた。

 2006年第4四半期からNAND型フラッシュ・メモリの価格が暴落し,韓国メーカーがNAND型フラッシュ・メモリからDRAMへ生産シフトすると,今度はDRAM価格が暴落した(「DRAMの短期展望:投資おう盛で供給過剰,価格下落でようやくVista効果」参照)。これまで足元の市況よりも中期的な視点で投資を継続してきた韓国メーカーが投資抑制に動いたのは,もうDRAMとNAND型フラッシュ・メモリの生産配分では対応できない状況にあると判断したのだろう。理性的な判断と言えるが,1990年代後半に投資を止めたことでDRAMから撤退した日本メーカーの判断と重なる。韓国メーカーの投資判断は早いので,投資が必要と見たときのライン立ち上げは急速だが,もし台湾や日本のメモリー・メーカーが投資を止めずに推移すると,韓国メーカーが遅れを取る事態も十分あり得る。韓国勢にとっては苦渋の決断と言える。

メモリ以外は投資に消極的

 メモリ・メーカー以外の投資を見ると,上位10社に入るのは,米Intel Corp.,台湾Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd.(TSMC),米Advanced Micro Devices,Inc.(AMD)の3社のみだ。

 ファウンドリー・トップのTSMC社は,2006年第4四半期から生産ラインの稼働率が落ち,2007年春にようやく回復し始めた。2006年末に比べれば投資に動きだしたものの,能力不足ではないので上位メモリ・メーカーに比べて投資規模は小さい。トップのTSMC社でさえその状況だから,他のファウンドリーはもっと投資に後ろ向きだ。そのため,2007年のファウンドリー全体のウエハー投入量の増加分は,メモリー向けに比べて小さく,5万枚程度しかない。

 また,ファウンドリーは最先端ラインにばかり需要が集中するわけではない。2007年第1四半期のTSMC社の売上高を見ても,90nm以下の最先端プロセス比率は23%であるのに対し,0.25μm以上の古いプロセスが20%以上を占めた。最先端ラインに投資しても,その投資を回収できるほど需要がないことも,ファウンドリーが投資を躊躇する理由の一つだ。

 そして,これまで投資をけん引したパソコンのCPUは,2006年から価格競争が激しくなっている。トップのIntel社も,これまでのようなペースで順調に投資できる状況にない。半導体の設備投資はメモリー依存度が高まる傾向にある。その中心となる韓国メーカーが投資を抑えても,連鎖的に投資が縮小しないのは,今のところ需要がおう盛であることで救われているからだろう。