混乱する現在の製品開発。前回の架空事例を踏まえて,あらためて現在の製品開発の抱える問題と解決のためのアプローチについて考える。

アジレント・テクノロジー 電子計測本部 R&D プロセスコンサルティング
多田 昌人

 前回述べたように,旧来のスタイルから脱却できていない製品開発の現場は,エレ/メカ/ソフトが複雑に絡み合う今の製品に対応できなくなってきている。各開発部門に要求される機能や性能要求があいまいなまま開発が進むことが多いからだ。  このように混迷する製品開発を見直す上でのキーワードは三つある。「開発体制」「開発プロセス」「アーキテクチャ」だ。

 ここでいうアーキテクチャは,単に技術的な意味ではなく,製品に要求される機能や性能が設計要素(機械,電気,ソフトなど)に対してどのように割り付けられ,それぞれがどう関係しているかという概念である。製品開発を適切にコントロールする上で重要なのは,この三つを最適に設計することだ。

 古いアーキテクチャをベースにした製品開発ならこれまでの体制と開発プロセスでよい。機能の増大だけで,製品の構成要素や要素技術があまり変化していなければ人海戦術でしのげるだろう。

 しかし,製品はどんどん多機能化し,それに伴って機能間の依存関係も複雑になっている。さらに製品の実装技術も従来のアナログ一辺倒から,デジタルとソフトが重要な位置を占めるものへと大きく変化した。場合によっては完全にソフトだけで実装することもある。例えばテレビ。かつてのブラウン管から主流は液晶やプラズマといった薄型テレビへと変わり,製品性能である画質を左右するアーキテクチャも,アナログの信号処理からDSP(digital signal processor)を使ったデジタル・フィルタ技術やそのソフト技術に置き換わった。

 そうした変化を考慮せずに,古い組織・プロセスのまま開発しようとしても,生産性も品質も悪くなる一方である。しかも,製品の大規模・複雑化で大所帯となったプロジェクト運営は,今までのあうんの呼吸では立ち行かない(図1)。

図1 ハード,メカベースのアーキテクチャに無節操に増改築を繰り返した結果,現在のアーキテクチャは崩壊寸前になっている。

 こうした変化に気付き,開発体制や開発プロセスの見直しを図っている企業や組織もある。だが,順番が違う。最初に見直すべきは,アーキテクチャであり,それに合わせて開発体制とプロセスの構築を考えなくてはならないのだ。

 製品構造や要素技術の変化に応じてアーキテクチャを見直すことなく,役割を明確にしないままこれまでの開発要素を単に開発体制マトリクス化したり,開発プロセスにアジャイル*1やスクラム*2といった流行のスタイルを導入したりしても生産性も品質も向上しない。いくら全社を挙げてのプロセス革新をやっても,なかなか成果が上がらない要因はここにある。開発体制,開発プロセスは開発対象のアーキテクチャに合わせて最適化すべきなのである。

 そのためには,やはり製品の機能,性能,使い勝手を左右する要素技術を横断的に見ることができるような人と体制を作らなくてはならない。その上で製品開発の初期段階から,関係する要素の技術的リーダーが参加して,実現のための最適な責務分担や依存関係を決めるべきなのである。

*1 アジャイル開発手法 ソフトウエアを迅速に開発するための開発手法群の総称。
*2 スクラム アジャイル開発手法の一種。

重み増すソフトの役割