Microsoft社 Consumer Media Technology, Corporate Vice PresidentのAmir H. Majidimehr氏
Microsoft社 Consumer Media Technology, Corporate Vice PresidentのAmir H. Majidimehr氏
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 Blu-ray DiscHD DVDといった次世代光ディスク事業にとって,2006年の年末商戦は消費者の審判をあおぐ最初の大規模商戦といえそうだ。いずれの規格も,数十タイトルのパッケージ・メディアを用意し,プレーヤーを店頭に揃える。ただ消費者にとっては,いずれも「HDTV映像で映画を視聴できる」という基本性能は満たしているため,どちらを選択するか悩ましい限りだ。

 その中で,視聴者にとって両規格の違いが分かりやすい数少ない機能の一つが,対話型操作(インタラクティブ)機能である。DVDと比べて工夫に富んだメニュー画面を表示したり,簡単なゲームを実行したりできる。

 HD DVDが採用した対話型操作機能「iHD」は,HD DVD規格に賛同する米Microsoft Corp.が米The Walt Disney Companyと共同開発したものである。iHDの特徴について,Microsoft社 Consumer Media Technology, Corporate Vice PresidentのAmir H. Majidimehr氏に話を聞いた。

(聞き手=内田 泰,浅川 直輝)

――HD DVDが採用した対話型操作機能「iHD」は,どのような機能をユーザーに提供できるのか。

 iHDの主な用途は,DVDより質が高いメニュー画面や,製作者による解説(コメンタリー)を表示すること。例えばPicture in Picture(PIP)機能を使い,円形の枠に映画監督の顔を表示させ,映画の再生と同期して監督が作品を解説する,といった見せ方ができる。

 コメンタリーのほかにも,映像を補完する様々なコンテンツを追加できる。例えばカー・チェイスを扱った映画では,走行中の自動車の位置をリアルタイムに追跡するGPSナビのような画面を重ねて表示できる。GPSナビはいつでもリモコンで表示をOn/Offできる。さらに,パズルゲームのようなシンプルなゲームを動作させることも可能だ。

――iHDをMicrosoft社が開発するに至った経緯を教えて欲しい。

Majidimehr氏 2年半前,米Disney社の技術者が我々を訪ねてきたことが開発のきっかけだった。Disney社は,次世代光ディスクについて「DVDと比べた利点が『HDTV映像』というだけでは売れない」と危惧していた。特にDisney社のAVコンテンツは子供向けが多い。既に親が「ライオン・キング」のDVD版を買い与えたところに,さらにHDTV版を買うとは想像しにくい。

 そこでDisney社が考えたのが,次世代光ディスクを「映像メディア以上のもの」にすることだった。具体的には,次世代光ディスクで簡単なアプリケーションを実行できるようにする。例えば,ライオン・キングのキャラクターを使ったシンプルな算数ゲームを収録すれば,親もパッケージを買い与えやすいのではないか。そう考えたDisney社は,我々にアプリケーション実行環境の共同開発をもちかけた。そこで,半年掛けて我々が開発したのがiHDである。

 iHDをHD DVD向け対話型操作機能としてDVD Forumに提案したところ,Javaなど他の候補を圧倒的多数で抑えて承認された。Blu-ray Disc規格の技術検討会でもiHDの採用が推奨されたが,同規格の意思決定機関であるSteering Committeeで否決されてしまっため,HD DVDのみの採用となった。

――iHDのコンセプトを知りたい。どのような実行環境を目指して開発したのか。

Majidimehr氏 iHDを開発するに当たり,我々が想定したのはインターネット,それもWWWサイトのような使い勝手だ。WWWサイトにはストリーミング動画があり,音楽があり,Flashがあり,Javascriptがある。そこでiHDは,WWW関連の技術を寄せ集めて開発した。具体的には,iHDはXMLとECMAscript*1,そして以前に開発したXMLベースのAV制御用マークアップ言語「SMIL」*2を組み合わせたものとなった。


*1 ECMAScript=JavaScriptの標準規格。WWWブラウザによって対応するJavaScriptの仕様が異なっていたことから,ECMAが標準化した。

*2 SMIL(synchronized multimedia integration language)=動画や静止画,音声,文字といったさまざまな形式のデータを同期して再生するためのXMLに準拠した言語。1998年にW3Cが標準として勧告した。

 iHDとは異なる実行環境の候補に,Javaがある。だが,Javaを使いこなすには熟練のプログラマーが要る。これに対してiHDは,WWWサイトを制作できる技術者であれば,数時間学べば誰でも開発できるようになる。

 iHDは機器への実装も容易だ。ミドルウエアとして用意する必要があるAPIは200~300個ほど。これに対してBlu-ray Javaは,欧州デジタル放送向け規格であるMHP(multimedia home platform)を継承した複雑なシステムなので,iHDよりひとケタ多いAPIを実装する必要があるだろう。



 日経エレクトロニクスは,2006年8月14日号~2006年9月26日号まで「Blu-ray Java」の詳細を解説する連載を掲載しています。さらに2006年10月9日号からは「iHD」を解説する連載を開始する予定です。