「テレビからケータイまで,機器にまたがるプラットフォームを−−」
松下電器産業とスクウェア・エニックスが提携に至ったのは,機器をまたがった開発基盤(プラットフォーム)作りに注力する,両者の思想が共鳴した結果といえそうだ(図1)。両社は都内で開催した記者会見で,提携の狙いを説明した(図2)(Tech-On!関連記事)。今回の提携は,「UniPhierの発表の直後に,スクウェア・エニックスが話を持ちかけてきた」(松下電器産業 代表取締役副社長の古池進氏)ことが発端という。
UniPhier向けに3次元機能を拡張
SEAD Engineは,スクウェア・エニックスの子会社である米UIEvolution,Inc.のGUI実行環境「UIEngine」を基に開発する。UIEngineの基本機能に加え,2次元および3次元のグラフィックス表示ライブラリへの対応や,松下電器のSoCが搭載する周辺回路への対応といった拡張を行う(図3,図4)。既存のUIEngineをそのまま搭載しなかった理由として,「3次元グラフィックス機能などを使ったリッチ・コンテンツを表示したいという思いが強かった」(松下電器産業の説明員)。
SEAD Engineの最初の応用先として両社が想定するのは,3次元映像を駆使したゲームではないようだ。「操作性が優れたGUIの開発が,SEAD Engineの最初の用途になるだろう」(スクウェア・エニックス 代表取締役社長の和田洋一氏)。
説明書を必要とせず,3次元グラフィックスを多用した直感的なメニューを実現する技術は,まさにゲーム・メーカーが得意とするところだ。機器メーカーにとっては,SEAD Engineを採用することで,EPG予約など複雑なGUIを短期間で開発できるメリットがある。
さらに,さまざまなジャンルの機器にコンテンツを配信したいと考えるコンテンツ・プロバイダーにとってもメリットがある。自社コンテンツを機器に配信するためのGUIを,簡単に設計できるようになる。SEAD Engineの前身であるUIEngineは,もともと携帯電話機やセットトップ・ボックスがコンテンツ配信を受けるためのGUIとして開発された経緯があり,非同期通信機能などコンテンツ配信に適した機能を持つ。SEAD Engineが,映像配信や音楽配信の窓口になるわけだ。
「UniPhier」のSoC製品群は,携帯電話機,車載端末,据置型AV機器など幅広い製品分野を対象としており,品種も多様である。これらの品種の違いをSEAD Engineで吸収することにより,複数の製品分野で同じコンテンツを再生できるようにする。
ただし,コンテンツによっては,再生できる機器が限定されることになる。例えばUniPhierには,3次元描画エンジンを搭載する品種と,搭載しない品種がある。このため,すべてのコンテンツをすべての機器で表示できるとは限らないようだ。「3次元グラフィックスなどのように一部の品種しか搭載していない機能を利用するコンテンツは,対応する機種が限られそうだ」(松下電器産業の説明員)。
なぜ松下とスクエニか
「UniPhier」を抱える松下電器産業と,「SEAD Engine」を持つスクウェア・エニックス。両社がそれぞれを提携先に選んだ背景には,両社が持つプラットフォームの思想がきわめて似ていたことがありそうだ。いずれのプラットフォームもテレビからケータイまで機器を横串に刺すものであり,適用先や仕様などの面で親和性が高かった。
松下電器産業は「UniPhier」を引っさげ,テレビ,ビデオ・カメラ,カーナビ,携帯電話機といった複数の機器に使えるハード/ソフト開発基盤を整備することを狙う。これにより,ソフトウエアなハードウエアの共通化を図り,機器の開発コスト削減につなげたい考えだ。
スクウェア・エニックスも同様に,機器を横串にした開発基盤の構築を目指す。同社が2004年にUIEvolution社を買収したのは,開発環境を共通化することで,ゲームを含むコンテンツを異なる機種でも再利用しやすくするためだ。「ある機種向けに作ったコンテンツを,他の機種でも利用できるようにするには,膨大なコストがかかる。例えば,テレビのある一機種を対象にゲームを移植しようとすると,とてもコストを回収できない」(和田氏)。
スクウェア・エニックスは,当面の間はSEAD Engineの開発をUniPhier向けに特化する。つまり,UniPhierが他社の家電に採用されないうちは,SEAD Engineは松下電器産業専用のGUIエンジンとなる。2007年ごろには,SEAD EngineとUniPhierを組み合わせた機器を製品化したい考えだ。