「いろいろ憶測も飛び交いご心配をかけしましたが,ようやくソフトウエア開発者の皆さんにプレイステーション 3の発売日をお届けできます---」

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は,2006年春に出荷予定だった「プレイステーション 3」の発売日を,同年11月初旬に延期すると発表した。同社 代表取締役社長の久多良木健氏が,ソフトウエア開発者向け会議で明らかにした。11月までに月産100万台の量産体制を整え,日本を含むアジア,米国,カナダ,欧州での「垂直立ち上げ・同時発売」に踏み切る。2007年3月末までに600万台を出荷したい考えだ。

 PS3の発売を延期する理由について,SCEは2つの理由を挙げた。1つは,次世代光ディスクのコンテンツ保護技術の策定が遅延したこと。もう1つは,デジタルAVインタフェース「HDMI」の最新版に対応することだ(次期HDMIについてのTech-On!の関連記事)。

AACSのライセンス開始が半年遅延

 1番目の理由であるコンテンツ保護技術「AACS」の策定作業は,2005年9月策定の計画から遅れに遅れた。暫定ライセンスの供与が始まったのは,つい1カ月前の2006年2月21日のこと。「2~3週間前に,機器1つ1つに割り振る暗号鍵の申し込みフォームがAACS LAからようやく配られた」(次世代光ディスクの技術者)という状況だ。次世代光ディスク・プレーヤは製造工程の過程で,厳重なセキュリティ管理のもとで1台1台に暗号鍵を書き込む必要がある。3月に鍵の配布を受けたと考えると,一部新聞による「販売に必要な250万台のうち,春までに50万台しか揃えることができない」との報道は,ありえる話である。

 ただし,AACSのライセンス供与が予定より遅れたとはいえ,いくつかの企業は2006年春に次世代光ディスク・プレーヤを出荷できるとする計画を変えていない。例えば,東芝が3月末に米国で発売するHD DVDプレーヤや,NECが3月~4月に出荷を開始するパソコン向けHD DVD再生装置,韓国Samsung Electornics Co., Ltd.らが5月23日に発売するBlu-ray Discプレーヤなどだ。ソニーは,1週間前に開催した「CeBIT 2006」で,Blu-ray Disc装置を搭載したパソコン「VAIO」を初夏に発売すると発表したばかりだ。これらの製品は出荷数がプレイステーション 3と比べはるかに小さいとみられることから,2006年3月からの量産でも,十分に発売日に間に合う可能性が高い。

「PS3は決して廉価版Blu-ray Discプレーヤではない」

 もう1つのHDMIについて,久多良木氏はかねてから「PS3は次世代HDMIに対応したい」と言及していた。次世代HDMIの規格策定は,2006年3月にほぼ終了し,6月にはライセンス供与が始まる見込み。

 次世代HDMIでは,RGB3色の分解能が従来の8ビットから12ビットに増える。同氏は次世代HDMIの導入などで「PS3は決して廉価版の低品質Blu-rayプレーヤではなく,最先端の技術が詰まったプレーヤになる」(同氏)とした。ただし,HDMI2.0対応のインタフェースLSIはサンプル出荷が始まったばかりで,PS3のコストをさらに押し上げる要因になるのは間違いない。

発売遅延の背景にはソフト開発の遅れも

 実際には,SCEが挙げた遅延の要因は,SCEがプレイステーション 3の発売延期を判断するに至った理由の一部とみられる。プレイステーション 3向けのゲームを制作するメーカーからは,2005年後半の段階で,2006年春には主要ゲームの発売が間に合わないのでは,との声が挙がっていた。

 「少なくともサード・パーティが2006年春に出荷するゲームは,既存のゲームのグラフィックスをHDTV仕様に焼きなおしただけのものになりそう。それすら春に間に合わない可能性がある」(大手ゲーム企業の開発者)。HDTV画質の3次元グラフィクスの作成に膨大な手間がかかるほか,「ソフトウエア開発環境やエミュレータの配布が計画より半年遅れた」(ゲーム企業の開発者)のが理由という。SCEは発売日を遅らせることで,ハード開発,ソフト開発とも万全の体勢で望みたい考えだ。

<訂正>記事掲載当初,タイトルに「プレステーション 3」と載せていましたが,正しくは「プレイステーション 3」の誤りです。お詫びして訂正します。