事件を伝える地元の新聞
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 「Nationwide Red Alert」(全土警戒態勢)
 ホテルの部屋に配られた新聞を見ると,前日夕方にガンジス河の沐浴で有名なバラナシで起こった同時爆弾テロが大きく取り上げられていました。すぐに頭をよぎったのは,あのアメリカ同時多発テロの時のことです。

 今回のテロでは,猿の神様「ハヌマーン」を祭った寺院が標的の1つになりました。火曜日はハヌマーンにお参りする日のため,参拝客が多かったからだと見られています。実は同じ頃,私もニューデリーのハヌマーン寺院を訪れていました。とあるレストランで夕食をとろうと思って歩き始めたのですが,辺りが暗くて道に迷ってしまったためです。日本の縁日のように賑やかな明かりと人波みを遠くに見つけ,心細さが癒される思いで近づいていった所が,その寺院でした。もしテロリストがニューデリーに目を付けていたらと思うと,背筋が凍ります。

 アメリカ同時多発テロのあった日,全米には瞬時に厳戒態勢が敷かれました。私が勤務していたシリコンバレー支局のあるビルは,普段の朝ならば自由に出入りできるのですが,その日は朝から警備員が立って入館者をチェックするようになっていました。隣にあるホテルのレストランではピストルを携帯した警備員が目を光らせていて,アメリカ人の同僚すら驚いていました。もちろん空港の手荷物検査が二重三重になったことは言うまでもありません。

 バラナシでの同時テロを知った私は,今日予定していたバンガロールへの移動が可能かどうかが気になりました。米国並みの警戒態勢になれば,ただでさえ渋滞気味の道路がよけいに混んで,予定していた便に間に合わないかもしれません。それよりなにより,飛行機が飛ばない可能性があります。急いで荷物をまとめて空港に向かいました。空港に行くまでには検問がいくつもあるに違いない。そんな覚悟をしていたのですが,タクシーはあっという間に空港に着いてしまいました。

 空港の入り口も素通りです。肩透かしを食ったような気分で,チェックイン・カウンターのところまで行きました。するとさらに驚くべきことが。航空券を渡しただけで,搭乗券を発行してくれるではないですか。身元確認のためにパスポートを見せるのが当然だと思っていた私はあっけにとられました。つまり,同時爆弾テロがあった直後で全土に警戒態勢を敷いていた(正確には,敷くといっていた)にもかかわらず,身元の確認をせずに乗客を飛行機に搭乗させていたわけです。おそらく,普段とまったく同じ手続きだったのでしょう。

 あまりのいい加減さに唖然としましたが,しばらくたつと,米国流が当たり前とばかり思い込んでいた自分に気づきました。もちろん何もチェックをしないのがいいとは言えませんが,米国で実施された警備のあまりの過剰さに異論が出るようになったのも事実です。テロに動じないのは,泰然としたインド文化の一部なのかもしれません。すべてを飲み込みながら流れ続けるガンジス河が象徴するように。

 ということで,明日からはバンガロールで取材します。

あっさりもらえた搭乗券
あっさりもらえた搭乗券
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