2005年下半期を見つめ直す意味で,Tech-On!では今,テーマサイトごとに「下半期トップ10」をお送りしています。これは「機械・メカトロニクス」に掲載した7月~12月の記事の中からアクセス数が多かった記事を抽出して半年を振り返り,2006年に向けての何かのヒントになればと企画した記事です。(Tech-On!編集部)

傷を修復するクルマ向け塗料

 機械・メカトロニクス・サイトで2005年下半期に最も読まれたニュースは,「日産,車体表面の擦り傷が復元する塗料を開発」(12月2日の記事)だった。日産自動車が開発したクリヤー塗料「スクラッチガードコート」で,塗装表面の痕(あと)が,時間の経過とともに復元する。洗車機にかけたり,藪(やぶ)の中の悪路を走った時にできる擦り傷や,ドアハンドル周辺を爪で引っかけたことによる傷などに対応。これまで塗装の表面に生じる傷を防ぐ方法として,塗膜に柔軟性を持たせる手法はあった。しかし,耐候性や耐熱性といった耐久性能に課題があった。近くSUVの一部車種に採用するという。

 「日本車の外観品質は極めて高く,欧米の自動車メーカーからみると過剰品質と思えるときがある」(ある日本の材料メーカー)という声が挙がるほど,日本の自動車メーカーは完成車の外観の美しさにこだわる。日産自動車の塗料の場合,それをさらに一歩進め,顧客に販売する時点だけでなく,使用中も外観の美しさを保持するという新しい付加価値をもたらす。単に塗膜の耐久性を高めることにとどまらず,塗膜に付いた傷を修復するという機能に大きな注目が集まった。また,この記事に注目が集まったということは,クルマの外観品質に対する日本の技術者の目がいかに厳しいかを反映していると言えるだろう。

業績の差でホンダとソニーのロボット開発に温度差

 この下半期は人間形ロボットに関する技術発表が多く,Tech-On!のニュースも読者の耳目を集めた。人間形ロボットの開発では日本は疑いなく世界一。日本の「お家芸」といっても過言ではない。ただ,人間形ロボットの開発にはジレンマがある。技術開発は着々と進んでいるものの,なかなかビジネスにならないという点だ。日本では一般に人間形ロボットに対する期待が大きく,各種イベントでは人気の的となる。だが,多くの場合,研究開発の費用は「持ち出し」だ。そのため,企業の本業の収益の好不調に左右され得る。このことが如実に分かったのが,ホンダの「ASIMO」とソニーの「QRIO」の開発動向だ。

 「米ビッグスリー」の凋落をしり目に,クルマの販売を伸ばして好調な業績を続けるホンダは,クルマで稼いだ潤沢な資金の一部を,ASIMOに搭載する新しい機能やその向上に当てている。2005年12月には同社は走行能力やオフィスでの受付機能を強化したASIMOを発表した(12月13日の記事)。時速6kmで走れるようになったほか,来客の案内や飲み物の運搬といったオフィスの受付で作業する能力を備えた。走行時の歩幅を従来の300mmから525mmに拡大するとともに,足の移動速度を高めて走行スピードをアップした。両足が浮いている間は,上半身のひねりや腰関節の動きによって積極的に姿勢を制御することで,高速走行が可能となった。オフィスでの受付業務を想定した機能も強化し,IC通信カードを携帯する人を認識して案内するほか,飲み物の入ったトレイを受け取って打ち合わせ場所に運んだり,ワゴンを運搬したりできる。

 このホンダと対照的なのがソニーだ。これまで両社は人間形ロボットの開発でしのぎを削ってきた。ASIMOもQRIOも技術の高度さは甲乙つけがたいほどだ。恐らく,両社のロボット開発者は互いに良い刺激を与える関係にあったことだろう。ところが,ホンダとソニーの間には企業業績という点に大きな差が生じてしまった。ソニーは屋台骨であるエレクトロニクス事業の業績が悪化し,同事業は2003年度から2005年度まで3年連続で赤字を計上する見込み。そのため,非コア事業である事業の縮小・撤退の経営判断が下されることになった。それを明らかにしたのは,2005年9月22日に同社が開催した新しい中期経営方針説明会。人間形ロボット「QRIO」とペット型ロボット「AIBO」の研究開発を縮小することと,高級ブランドを目指した製品群「QUALIA」の新規開発を凍結することを明らかにした(9月22日の記事)。ロボット開発で培った技術については,今後AIの分野で有効活用するというが,本業のAV機器事業の「台所事情」が苦しい中,ソニーはロボットの開発に社内のリソースをどこまで割けるだろうか。

リサイクルに有利な締結要素

 今,多くの日本メーカーが,重視するキーワードとして「環境」を挙げる。もちろん,このキーワードが意味するものは,環境負荷をできる限り低減する製品を造ることだ。従来,環境負荷の低減は企業イメージの向上という意味合いが大きいという側面もあったが,現在は違う。顧客の環境負荷に対する認識が高まり,環境負荷を低減する技術が収益を生む要因になりつつあるからだ。トヨタ自動車のハイブリッドカー「プリウス」の米国での人気は,その好例だろう。だが,環境負荷を低減する技術は何もこうした“派手”な技術ばかりとは限らない。むしろ,目立たないが確実な技術の積み上げが,のちのち大きな貢献につながるという方が現実には多いだろう。実際,この下半期でも,そうした記事が高いページビューを記録した。製品の解体性に優れるねじのニュースだ(12月1日の記事)。加熱すると締結力が弱まるねじだ。形状記憶合金を使用し,約+90℃で加熱するとワッシャーが変形する。これによりネジ留めしている個所を外せる。東海大学がNECトーキン,シャープ,ユニオン精密の3社と共同開発した。

大ヒット商品に不具合発覚

 2005年度は事故や製品のリコール,不具合などが特に目立った年だった。福知山線の事故や松下電器産業の石油温風暖房機の不具合,度重なる航空機の故障,耐震強度偽装マンションやホテル,直近では羽越線の脱線事故のニュースが飛び込んできた。これらの原因はさまざまである。しかし少なくとも,次のような警鐘を日本メーカーに鳴らしたと言えるだろう。「企業は利益を出さなければならないが,行き過ぎた人員削減やコスト削減は危険だ」。そして,このテーマサイトでも製品の不具合の記事が注目を引いた。日立ホーム&ライフソリューションの洗濯乾燥機「白い約束」シリーズの製品の一部に不具合が発覚したという記事だ(12月20日の記事)。乾燥機のヒーターにつながるリード線が断線し,通電中に発煙・発火に至ることがある。無償修理の対象となるのは,2001年8月~2002年12月に製造した4機種,計23万8872台。対策に要する費用は20億円を見込むという。白い約束は同社の大ヒット商品。売れたがゆえに,無償修理の数も増えるという皮肉な結果となってしまった。こうした失敗を糧とし,次に生かすものづくりを同社には期待したい。

2005年下半期(2005年7月1日~12月27日)アクセス・トップ10
順位 記事タイトル 掲載日
1 日産,車体表面の擦り傷が復元する塗料を開発 12月2日
2 時速6kmで走るホンダの新型ASIMO−−「ご案内とお茶出しもできます」 12月13日
3 ソニー,「QRIO」「AIBO」の開発縮小,「QUALIA」の新規開発は凍結へ---復活に向け“夢”よりもコスト削減を追う 9月22日
4 ハイブリッド鉄道車両をJR東日本が2007年夏に導入,営業路線では「世界初」 11月10日
5 加熱で外せるネジ,東海大学などが開発 12月1日
6 日立H&Lの洗濯乾燥機で発火に至る不具合,約24万台を無償修理 12月20日
7 三共製作所,転がり接触でバックラッシのない直交軸の減速機を開発 11月21日
8 ティッシュで6年間フィルタ掃除が不要に,三洋電機の掃除機 8月8日
9 グッドデザイン賞,大賞は「iPod」などを抑えて世界一細いインスリン用注射針 10月25日
10 「誰でも簡単に改造できるホビーロボット」,京商が2006年に発売へ 9月21日