連載の過去2回では,抵抗測定における不確かさの算出方法について解説した。今回は,測定の対象となる分野を高周波電力に変えて,不確かさの算出方法を紹介する。基本的な考え方は,抵抗測定のときと同じだ。しかし,高周波電力測定には,高周波ならではの難しさがある。その一つが,高周波コネクタの取り扱い方である。これを誤ると信頼性の高い測定が実施できず,不確かさが非常に大きな値になってしまう。
第1回(日経エレクトロニクス2009年4月6日号)と第2回(同2009年5月4日号)では,抵抗測定に関する不確かさを算出する方法を紹介した。第3回となる今回は高周波電力の不確かさの算出方法を説明しよう。具体的には,2GHzの信号を出力する発信器の高周波電力をパワー・センサとパワー・メーターを用いて測定する場合の不確かさの算出方法である(図1)1)~2)。発信器から出力された高周波信号をパワー・センサに入力すると,直流電圧に変換される。パワー・メーターでは,この直流電圧を高周波信号電力に換算して表示する。
1)“ Agilent Fundamentals of RF and Microwave Power Measurements(Part 1~Part 4)”,Agilent Technologies
Application Note 1449-1~1449-4,.
2)“ Coaxial Systems Principles of microwave connector care”,Agilent Technologies Application Note 326
(5954-1566)
不確かさの基本的な算出方法は,第2回で紹介した標準抵抗を使った抵抗測定における手法に,かなり近い。つまり,パワー・センサの校正係数の不確かさとパワー・メーターの基準信号の確度を利用して,高周波電力測定における不確かさを求める。しかし,高周波電力測定における不確かさの算出では,高周波測定ならではの考慮すべきポイントがいくつか存在する。こうしたポイントを押さえずに測定を実施してしまうと,信頼性が高い測定結果が得られないので注意が必要だ。
パワー・センサとパワー・メーターで測定
図1(a)に示したのがパワー・センサである。測定可能な周波数範囲は10 MHzから18 GHzで,電力範囲は-35 dBmから20 dBmである。パワー・センサは機種によって,測定可能な周波数範囲や電力範囲が異なる。このため,測定対象物によって最適なパワー・センサを選択しなければならない。
パワー・センサに高周波電力を入力すると,内蔵の変換器によって直流電圧に変換されて出力される。変換器のタイプはパワー・センサによって異なり,通常は熱電対を用いるタイプとダイオードを用いるタイプのいずれかだ。当然ながら,どちらのタイプのパワー・センサを使っても周波数特性が存在する。この周波数に応じた補正をかけないと,正確な測定結果は期待できない。この補正値を「校正係数」と呼ぶ。