前編より続く

エレクトロニクス分野の技術者が日ごろから行っている測定の信頼性を高める上で欠かせない指標が「不確かさ」である。前回は抵抗測定を例に,不確かさの概要と簡単な算出方法を説明した。今回は,同じ抵抗測定を例に使って,不確かさをより厳密に求める方法を説明しよう。さらに,標準抵抗を用いることで,抵抗測定時の不確かさを計測器の測定確度以下に抑えるテクニックも紹介する。(日経エレクトロニクス)

 前回(日経エレクトロニクス2009年4月6日号)は,計測器の仕様書などに記載されている測定確度を使って不確かさを算出する方法を紹介した。この方法を使えば,日ごろから行っている測定の不確かさを簡単に算出できることを理解していただけたと思う。

 ただし,前回は算出方法の概要を説明することに重点を置いたため,説明を省いた部分がいくつかあった。読者の皆さんが今後,さまざまな測定で不確かさを評価するのであれば,省いた部分も理解しておく方が望ましい。そこで,ISO(国際標準化機構)のGUM (Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement)に従って,不確かさを比較的厳密に算出する方法を紹介する注1)

注1) ISOのGUMに関する文献としては,米国の「NIST Technical Note 1297」,欧州の「EA 4/02」,日本の「NITE JCG200」などがある。ISOのGUMを日本語に翻訳した書籍も発行されている。タイトルは,『ISO国際文書 計測における不確かさの表現のガイド』,監修は飯塚幸三氏,出版社は日本規格協会,発行日は1996年1月である。

四つの評価項目で厳密さを高める

 不確かさを比較的厳密に求める方法の紹介には,前回の後半に登場したケース1Bを使う。まずは,ケース1Bの内容をおさらいしよう。その内容とは,測定確度が(読み値の0.05 %)+(測定レンジの0.005 %)のデジタル・マルチメーター(以下,マルチメーター)を用いて,1 kΩの抵抗器を測定する場合の不確かさを求めるというものだった。抵抗の温度係数は±100×10-6/K。測定はマルチメーターの仕様で定められた温度環境で実施し,測定を10回行ってその平均を測定値とする。

①入力量と出力量の関係式

 抵抗の温度係数を±α,23 ℃からの温度差をt,テストリードを含んだ抵抗の測定値をRM,テストリードの抵抗の測定値をRLとすると,関係式は以下のようになる。

 この式をRについて解き,RMRLRd と置くと,次式にまとめられる。

②不確かさの成分を抽出して評価する

 u(Rd )は,マルチメーターの測定確度を31/2で割った値,s( ̄RD)はN回の測定で求めた標準偏差s(Rd )をN1/2で割った値である。抵抗の温度係数αを31/2で割った値をu(α),温度変化tを21/2で割った値をu(t)とすると,温度変化による不確かさは(1000 Ω×u(α)u(t))と表現できる。