前回は,Serial ATAの事例を通じて,認証試験の見直しによって計測手法自体がガラリと変わってしまうことがあるという説明をしました。さらに,規格の進化や応用の広がりを先回りすることの重要性を示しました。今回は,Serial ATAの規格認証試験に導入された新しい計測規準の内容とともに,新基準への計測側の対応について解説します。(連載の目次はこちら

 ここからは,Serial ATAの規格認証試験に導入された,新しい計測規準について解説します。計測手法自体は,特に目新しくないですが,適用する部分と目的に特徴があります(試験の下準備に関しては,次回の「信号の取り出しにはBISTが必須」参照)。

 通常,シリアル・インタフェースの規格認証試験というと,信号の品質を確認するためのアイ・ダイヤグラム試験を思い浮かべる人が多いかもしれません。事実,「USB 2.0」「PCI Express」「HDMI」をはじめ多くの規格でアイ・ダイヤグラム試験の実施が規定されており,規格認証試験の中心的な計測項目になっています。しかし,現在のUnified Testの試験項目からは,高速データ伝送技術の認証試験では誰もが基本と考えていたアイ・ダイヤグラム試験が削除されています。

 Serial ATAにおいても以前はアイ・ダイヤグラム試験が行われていました。例えば,米Intel Corp.が発行したGen1向け技術の解説書「Serial ATA Storage Architecture and Applications」にアイ・ダイヤグラム試験が記載されています。しかしその後,2004年5月に発行されたGen2とGen1の双方に対応する「Serial ATA ? Revision 1.0」の中ではアイ・ダイヤグラム試験が義務付けられていません。また,同規格の仕様書の中で計測手法を記載した項目には,立ち上がり時間や最大電圧など波形データから抽出した特性パラメータを計測して出力信号などの規格準拠を確認すると明記しています(表2)。アイ・ダイヤグラム試験に代わって,パラメータ試験を用いることになったのです。

表2 Unified Testにパラメータ形式で規定されている出力信号仕様の一部
「 Data-Data, 10UI 」はSerial ATAのデータ信号のあるエッジと5UI離れたエッジとの間のタイミングの変動を計測することを示しています。「Clk-Data, fBAUD/10」のClk-Dataは,受信側で再生をしたクロック信号のエッジとデータのエッジの間のタイミング(クロック/データ間スキュー)の変動を計測することを示しています。また,fBAUD/10 は受信側のクロック再生回路に含まれるPLLのバンド幅が転送速度の1/10であることを示しています。
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仕様書と試験の間でジッタの定義が不一致

 アイ・ダイヤグラム試験がUTDから削除された理由は,Gen1しかなかった当時の認証試験での課題だったジッタ評価の不明確さを解決するためでした。

 Gen1しかなかった時点での規格では,仕様書には計測するジッタの定義として,「Data-Data,5UI」または「Data-Data,250UI」と記載されていました注4)。Data-Dataという表記は,データ信号を基準にしたデータ信号のジッタという意味です。5UIまたは250UIとは,データ信号の任意のエッジを基準として5UIまたは250UI後のエッジまでのジッタを計測するという意味です。仕様では,タイム・インターバル・アナライザ(TIA)を使ったジッタの計測を想定していました注5)。具体的には5UIの場合,TIAのカウンタを使って5UI離れた信号のエッジを検出し,5UI間隔で連続的に読み出して読み出したエッジ間の時間のズレを使ってヒストグラムを描きます(図2)。そして,ヒストグラムから推測された値をジッタとして読み取ります。

図2 試験手法の刷新前後でのジッタの定義の変化
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†UI(unit interval)=ジッタなどの度合いを表すための単位です。1ビット分の信号に相当する時間を1UIとします。

注4)Gen1向けジッタの規格値の定義にである5UIと250UIという計測区間は,クロック再生ユニットの特性を模して決まった値です。5UIの区間では,周期の低いジッタは大きなズレにつながりにくいため,計測しにくくなります。これに対し,250UIの区間ならば同じジッタを計測しやすくなります。ジッタ周波数と,5UIおよび250UIの相関関係は規格の中でも示されています。

†タイム・インターバル・アナライザ=ジッタ計測などに用いる計測器です。入力した信号のエッジを検出し,カウンタを使って所望の領域の時間を計測します。

注5)TIAが試験の仕様を決めるときの計測器として想定されている理由は,試験仕様の草案をTIAの製品を販売しているメーカーが作ったことを反映しているようです。ところが,規格認証試験では,多くの場合オシロスコープを使って計測していました。仕様の策定を急いだために生まれた不一致です。