技術標準だけではなく,認証試験の計測手法もまた常に進化しています。標準化団体は認証試験の厳格化に向けて試験内容を常に見直しています。その結果,計測手法自体がガラリと変わってしまった例があります。なじみ深いアイ・ダイヤグラム試験がなくなったSerial ATAです。ここではSerial ATAの事例を通じて,認証試験で計測技術が刷新するときの標準化団体側の狙いと刷新後の新常識への対応を解説します。(連載の目次はこちら

Serial ATA対応ケーブルの例と認証ロゴ
図1 Serial ATA対応ケーブルの例と認証ロゴ
Serial ATA対応ケーブルの例と,規格認証試験に合格した製品に付けることのできるロゴ。

 Serial ATA(serial advanced technology attachment)は,元々パソコンの内部接続で使うパラレル方式のATAの置き換え技術として開発されました(図1)。対応製品を開発・販売するメーカーと,対応製品の数は順調に増え続けています。応用分野も広がっています。当初は,ほとんどがパソコンに内蔵するハード・ディスク装置(HDD)でした。最近では,光ディスク装置が増え,フラッシュ・メモリ搭載のHDDなど新しい形態の蓄積メディアにも応用が広がっています。また,パソコン内部の配線だけではなく,機器間をつなぐインタフェースとしても利用されるようになってきました。

 対応製品の増加や応用分野の広がり,高速化,伝送距離の延長などによって,より確かな方法で相互接続性を保証する必要が出てきました。その結果,Serial ATAの規格を策定しているSerial ATA International Organization (SATA-IO)は,2006年の1.5Gビット/秒から3Gビット/秒への高速化を契機にして,規格認証試験で行う計測方法や合否判定基準を刷新しました。新しく導入した試験は,高速データ転送技術にかかわる製品を開発してきた技術者が,長年慣れ親しんできたアイ・ダイヤグラム試験を行わない画期的なものでした。本稿では認証試験の今後を先取りしたSerial ATA向け技術の中で,特徴的な部分を詳細に解説します(表1)。

表1 Serial ATAの規格認証試験での計測面での課題と対策
Serial ATAの規格認証試験における計測面での課題と主な対策のうち,他の高速データ転送技術と比べて特徴的な項目を挙げました。
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認証試験専門のイベントを開催

 現在SATA-IOは,市場に出荷されるすべての製品の相互接続を保証し,技術に対する信頼を得ようとしています。これは,過去に課題を抱えたまま行ってきた認証試験によって,十分な相互接続の確認をせずに認証ロゴを張った製品を市場に出してしまったことの反省でもあります注1)。具体的な打開策の一つが,規格認証試験を行うための「Interoperability Workshop (IW)」と呼ばれるイベントを年2回開催すること。もう一つが,IWで行われる規格認証試験「Unified Test」で実際に行う計測の厳格化です。具体的な試験内容は公開している仕様書である「Unified Test Document(UTD)」に記載されています注2)。IWの実施状況を反映させてUTDの内容をさらにブラッシュアップし,第三者機関での認証試験も可能にしています注3)

注1)規格認証試験に向けたイベントが開催されるようになった2006年以前にも,相互接続確認の技術情報の交換ためのイベントである「SATA Plugfest」の中で認証試験が行われていました。しかし,各計測器メーカーが仕様の記述を解釈して試験を実施していました。試験時間は1時間と短く,計測項目も十分統一されていませんでした。こうして認証を得た製品がロゴを取得し,市場に出回りました。

注2)SATA-IOのWWWサイト(http://www.serialata.org/)で公開されています。

注3)この仕様に沿った試験は第三者機関でも実施できます。現在は,台湾Allion Test Labs社,米University of New Hampshire InterOperability Laboratory (UNH-IOL),台湾Electronics Test Center, Taiwanの3機関が登録されています。