前回は,アナログ技術者の活躍の場がますます広がっていることを紹介しました。今回は,現在求められているアナログ技術について,具体例を示しながら説明します。(連載の目次はこちら

 では,どのようなアナログ技術者が求められているのでしょうか。近年のアナログ技術は,昔のアナログ技術とは様変わりしています(図5)。

図5 アナログ技術が1990年代に変わる
米欧は,パソコンやHDD,通信分野で“新世代アナログ”を多用しましたが,日本はその動きに追いつけませんでした。

 DVDレコーダーやGビットEthernet準拠の通信装置を見てみましょう。DVDレコーダーはデジタル信号を記憶/再生しますが,例えば再生するときは,まずDVDからの信号を増幅し,余分な信号をフィルタリングするアナログ処理を行います(図6)。次にA-D変換し,デジタル・フィルタで波形等価を行い,誤り訂正などのデジタル処理で信号をきれいにして再生しています。さらにクロック・リカバリ回路で同期を取ってVCO(voltage controlled oscillator)回路を制御しています。こうすることで,ディスクが揺れたり,光軸がぶれて信号に誤りが入ってしまったりしても,正確なデータを再生できるようになります。実際にDVD規格より3ケタも低いエラー率を達成できました。

図6 DVDレコーダーのアナログ-デジタル混在回路
DVDからの信号をアナログ処理後A-D変換し,デジタル処理を行うことでDVD信号をきれいにして誤りのない再生を行っています。DVD規格より3ケタも優れた低エラー率を実現しました(c)。松下電器産業のDVDレコーダーの例。

†波形等価=パルス波形の再生を行うこと。帯域制限されたデジタル信号を正しく再生するフィルタ技術などが必要になる。HDDやEthernetなどの通信,LVDS(low voltage differential signaling)といったボード上のインタフェースなどで重要。

 製品開発の際は,ディスクが傾いてもきちんと信号を再生できるチルト・マージンを大きくできる回路が求められます。チルト・マージンが大きければ,モータなど機構系のコストを下げられるからです。そのような回路はアナログだけでも実現できますが,デジタル回路を併用すれば設計の選択肢が広がり,DVDレコーダーの製造コストを下げられる可能性があります。また,このような回路技術の工夫で,どんなディスクでも読み出せるリーダビリティーを高めることもできます。これは製品の大きな魅力になります。

 図7のGビットEthernet準拠の通信装置は,エコー・キャンセルやクロストーク・キャンセルなどのデジタル処理を行って受信した信号を再生します。送信する信号も,ケーブルでの高周波信号の減衰などの要因で波形劣化してしまうので,デジタル回路で波形整形を行いながら送信します。このようにアナログ回路とデジタル回路をうまく構成している機器がほとんどです。

図7 GビットEthernet用アナ-デジ混在回路
アナログ回路でデータ変換,データ/クロック・リカバリを,デジタル回路でイコライザ(波形整形),ノイズ・キャンセル,誤り訂正,暗号化を行っています。

 もはやアナログ回路だけで構成している機器はほとんどないので,昔のように電気回路や交流理論のような“純アナログ”の勉強から始めるよりも,まずはアナログとデジタルが混在した実際の世界の全体像をつかむことが大切です。つまりアナログ技術とデジタル技術を別々に学ぶのではなく,それぞれどのようなことが得意で,相互にどのように協調し助け合えるのかを理解した上で技術を深く学んでいくことが,早く的確に回路技術を理解できる方法と言えるでしょう。

 また,新しい機能や高い性能を機器上に実現するときは,最近はICを利用することが多くなりました。そのため,ここではIC上のアナログ回路技術を中心に話を進めたいと思います。