前回は,デジタル機器開発者にとって,あらためてアナログ技術を習得しなければならない時代になったことを紹介しました。今回は,アナログ技術者の活躍の場がますます広がっていることを紹介します。(連載の目次はこちら

 周囲にある電子機器を見てみましょう。ほとんどアナログ回路とデジタル回路の両方で構成されていると思います(図2)。アナログ回路技術が必要とされる場面は,現在さらに増えています。図3の(1)~(5)は,1997年以降,電機メーカー各社が取り組んできたアナログ技術に関係する代表的な開発案件です。アナログ技術が性能やコストを決める主要な役割を果たしました。

図2 さまざまな個所に使われているアナログ技術
携帯電話機には,高周波回路やカメラ,ディスプレイ,電源をはじめとするさまざまなアナログ回路が使われており,製品の魅力を高めています。「FOMA P703iμ」の例を挙げました。写真は『日経エレクトロニクス』2007年4月9日号「分解 世界最薄ケータイ」から引用。
図3 電子機器のアナログ関連開発案件の例
デジタル・ネットワーク,デジタル・ストレージなどでも,アナログ技術は基幹技術として必須です。1997年以降,図のような開発案件が急速に増え,現在も多くの企業でアナログ技術者が不足しています。

 インタフェース関連技術が多いのが目立ちますが,それはあらゆる機器がネットワークでつながるようになってきたからです。しかも信号を高速伝送するようになっているので,高度なアナログ技術が必要になっています。

 本来は(1)~(5)のそれぞれに5人から10人程度のアナログ回路技術者が必要になります。マネジャーや各回路IP開発,全体システム検証,アナログ・レイアウト,テスト設計,評価を行う各担当者が必要になるからです。しかしデジタル技術一辺倒の時代が続いたので,十分なアナログ技術者を確保できている企業は少ないようです。

†IP=intellectual propertyの略。知的財産のことですが,転じてメガセルなどの回路ブロックなどを指すことがあります。

 その後も,アナログ関連の開発案件は目白押しです。図4は,エレクトロニクス業界の開発動向を明確に示すといわれている国際会議「ISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)」におけるアナログ関連セッションです。1985年以降,どんどんアナログ関連セッションが増えています。1985年までは純アナログ回路技術が目立ちましたが,それ以降,イメージ・センサ,無線,A-D変換器,ディスプレイ,大容量ストレージと,デジタル技術を併用するアナログ関連セッションは増える一方です。あなたの身の回りにも,これらの回路があふれているでしょう。現場でもアナログ技術者は引く手あまたであり,技術者不足は慢性的と言えます(次ページの別掲「アナログで事業につまずく企業が相次ぐ」参照)。

図4 アナログ関連セッションが増える「ISSCC」
そのほかの主要な国際学会でもアナログのセッションは年々増加しています。