――多くのメーカーが「3Dテレビ」に力を入れていました。

 今年を元年として3Dテレビが大きな市場を作り,収益の上がるビジネスとして今後,成り立っていくのか。そう聞かれると,残念ながら現段階では,とてもそのような状況になるとは思えなかった。そう感じた理由は幾つかある。

 まず,視聴スタイルに大きな問題がある。

 現在,各社が進めている3Dテレビの方式は幾つかの方式に分かれるが,どれも眼鏡を着用して視聴する点では同じだ。リビングで家族みんなが眼鏡をかけて,テレビを見るという視聴スタイルを,私はどうしても想像できない。

パナソニックは,2010年4月に業界に先駆けて3Dテレビを発売する。

 テレビはそもそも気楽に見るもの。コンテンツによってメガネを付けたり外したりなんて面倒じゃないか。そういうことを視聴者がやるとは思えないんだ。それに,大手各社が推進しているアクティブ・シャッター方式のメガネは,電気回路が組み込まれて重いので,長時間付けるのが苦痛でもある。

 そういう点も含めた人体への悪影響も心配だ。いわゆる「3D酔い」の問題はまだ,完全には解決されていない。少なくとも,あらゆる人が3D酔いを絶対に起こさない3Dコンテンツを作るのは現時点では不可能だ。

 展示会のデモで見るのはたかだか5分なので,こういう問題は表面化しない。私は50分程度,3D映像を見たことがある。気持ち悪くはならなかったが,そのあとで紙の雑誌や書類を見たら,文字が浮いて見えたりした。また,画面の切り替わり時のちらつきも目が疲れる一因だった。

――3D酔いの問題はかなり解決されている,とも聞きますが…。

 今,大ヒットしている映画「アバター」はコンピュータ・グラフィックスを駆使し,計算し尽くした3D映像を見せている。それでも,視聴後に気分が悪くなったり,メガネの重さが気になったりした人は残念ながら出ている。

 周囲が真っ暗で視界と映像を一体化しやすい映画と,画面が小さく,映像とその周りの情景とが一緒に見えるテレビでは条件は全く異なる。個人的な感触だが,度合いや内容は人によって差があるにしても,3D映像の視聴で,視覚が何らかの影響を受けることは間違いないように思う。仮にそれが原因で事故が起こったらどうするのかと心配になる。そういった観点でも,3Dテレビはまだまだ課題があるんじゃないかと感じてしまう。

 かつてソニーがメガネの中にモニターを組み込んだ「グラストロン」という製品を売り出したことがある。この製品は視聴スタイルが従来とはかなり異なっていたため,その弊害が懸念された。そこでソニーは発売前に,日米の双方で医学的な検討をかなり綿密に行ったと聞く注1)3Dテレビに関しても家電メーカーは当然こうした検討をしているはずだとは思う。だが,なぜか具体的な話があまり表に出てこないのが気になる。本当に大丈夫だろうか。

注1) 実験結果の一部は,日経エレクトロニクス,1996年8月19日号の論文「ヘッド・マウント・ディスプレイの視覚への影響を実験」に掲載。

――後編に続く――