富士フイルムが2009年6月に発売した「FinePix Z300」は,野心的な試みが盛り込まれている。撮影前のプレビュー時にユーザーがタッチ・パネルに触れると,触れた場所にピントを合わせた上に,シャッターも切ることだ。
携帯電話機で,こうしたモードを備えた商品はあったが,カメラ・メーカーがこれを採用するのは画期的である。「シャッター・ボタンは”神聖”な存在。変えるとユーザーを混乱させる」(あるカメラ・メーカー)という意見が根強いからだ。
Z300の商品企画を担当した富士フイルム 電子映像事業部 商品部 担当課長の寺田 昌弘氏に,開発の狙いなどを聞いた。
――なぜタッチ・パネルでシャッターを切れるようにしたのでしょうか。
主たる想定ユーザーである女性が求めていると考えたからです。女性が何の写真を撮っているかというと男性同様,人物が多いのはもちろんですが,料理,ペット,アクセサリーといった身近なものを撮っている。これらは近接して撮るので,合焦点の構図の両方に気を配る技能が必要になります。
でも,現実のユーザーはその前段階,つまりシャッター・ボタンを半押しして合焦することさえ,難しいと感じていたり,十分に知らなかったりする。これに対する統計データを持ち合わせていませんが,ユーザーにインタビューすると,かなり高い割合で半押しが受け入れられていませんでした。
半押しに対する説明を受けたり,練習なんてせずに,ユーザーが写真をより深く楽しむにはどうしたらよいか。以前から私は,こうした問題意識を持っていました。そしてZ300の開発に取りかかる段になって,設計部門と話していたとき「後発のタッチ・パネル機なんだから特徴が必要,シャッターも切っちゃえば」というアイデアが出てきました。
私が言ったのか,設計部門の人間が言ったのか記憶は定かでありませんが,ともかく,このアイデアに設計部門は「(タッチ・パネルはこなれてきているので)やれます,大丈夫です」と返してくれました。私自身も,これなら「合焦点の構図の両方に気を配り…」なんて説明も練習も要りませんから,乗りました。
――「世界初,タッチ・パネルでシャッターが切れる」とうたえますしね。しかし,企画を通すのは容易でなかったはずです。丸形のシャッター・ボタンを押さないと,撮っていて違和感を感じる消費者も,少なからずいるわけですから。
確かにZシリーズでなかったら,社内も販売現場も受け入れなかったかもしれません。発売後の販売現場には,想定以上に素直に,暖かく,今回のシャッター機能を受け入れてもらえました。
――ただ,タッチ撮影モードを選んだときだけ,これが有効になります。ほかのモードでは通常通り,シャッター・ボタンを押さなければなりません。オートからモードを変えないユーザーが大半を占めている現状を考えると…
そうですね。今後のことで未定ですが,これまでの市場の反応を見る限り,ほかのモードでもタッチ撮影を有効にしてもよいのかもしれません。
――実際にZ300を操作すると,非常にスムーズに写真を撮れて,手ブレが増えるような感じもしません。なぜでしょう。
ユーザーがタッチしてから1秒ほどのタイム・ラグを経てシャッターが切れるからです。すぐに切ると手ブレしてしまいます。動く被写体を撮るには,難があるので,この点は今後の研究課題です。
――タッチ・パネルの方式は何ですか。
抵抗膜方式です。静電容量方式も検討しましたが,乾燥した指で押すと反応しないことが多いので見送りました。
――iPhoneのように二本の指で写真を拡大できません。知的財産権のからみがあって難しいと聞きますが。
多点検知の活用も研究課題ですね。
――とはいえ,画面遷移やそのアニメーションは,大変優れていると感じます(詳細はデジカメWatchの記事を参照)。例えば,写真を次々にめくるときには,指を横にスライドさせるだけでなく,画面の左右の端に,矢印ボタンが表示される。そのボタンを押しても写真はめくれます。
設計陣が激務をいとわず,説明不要で使えるよう改良してくれました。これまでのタッチ・パネルを用いたカメラは,自動券売機のように実用性一本槍だったのですが,それとも差異化できたと自負しています。画面の設計・表示には,ACCESSが販売するFlashベースのソフトウエア部品を利用しています。