国内自動車メーカーによる次世代車載LAN「FlexRay」の採用が大幅に遅れる見込みだ。先行する欧州勢に対して,日本の要求仕様を策定するのが遅すぎた。このままでは今後の日本のカーエレ開発に甚大な被害が及びそうだ。車載LANにとどまらず,車載ソフト開発にも大きな影響が生じるからだ。これを防ぐには,今こそ国内自動車メーカーが“本当の”旗振り役を担わねばならない。

日本版FlexRayの採用は大きく遅れる見込み

 「2010年の採用はもはや難しいだろう。どんなに早くとも2014年以降になる」(日産自動車)─。

 国内自動車メーカーが「2010年までの採用」を目指していた次世代の制御系車載LANインタフェース規格「FlexRay」の採用が,2014年以降に大幅にずれ込む見通しだ。FlexRayは,現在の制御系車載LANにおける事実上の標準「CAN(controller area network)」を発展させた規格である。CANより高速で,信頼性が高いという特徴がある。自動車のエレクトロニクス化は年々加速している。「CANではいずれ車載LANが破綻する」との危機感から,ドイツBMW AGやドイツDaimler AGなどの欧州自動車メーカーを中心に,約10年前から仕様の策定が進められていた。

 だが,国内自動車メーカーによるFlexRay採用の量産車の登場は2014年以降に遅れそうだ。カー・エレクトロニクス技術開発の基盤となる車載LANの整備で,欧州と比べて大きく遅れを取ることになる。ハイブリッド車など電動車両の開発で先行する国内自動車メーカーにとって,この遅れは致命傷につながる危険性がある。「モータや電池を駆使するハイブリッド車は,ガソリン車と比べて通信データ量が膨大。心臓部の通信にCANは使えない。現時点では専用の通信線を使わざるを得ない」(国内自動車メーカーでハイブリッド車の制御技術開発に携わる技術者)状況にあるからだ。つまり,CANの破綻は将来の課題ではなく,既に現在の問題だ。エレクトロニクス部品では,標準品と専用品では雲泥の差がある。選択肢の多さやコストの面で,標準品を使う方が有利になることが多い。

『日経エレクトロニクス』2009年5月18日号より一部掲載

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