「2005年秋から,薄型テレビの開発を手掛ける技術者から静電容量の低い素子を求める声が増えている」(STマイクロエレクトロニクス MPAグループ プロダクトマーケティング 課長の吉野善晴氏)――機器を設計する際に避けて通れないESD対策に異変が起きている。機器設計者がこれまで長年使い続けてきたESD保護素子が使いにくくなる事例が増えているのだ。素子が備える静電容量が問題となり,信号波形が歪んでしまうためである。信号を歪ませないためには静電容量が既存品の3~5pFより低いESD保護素子を使う必要がある。こうした低静電容量のESD保護素子に対する需要の高まりを受けて,パナソニック エレクトロニックデバイスや伊仏合弁STMicroelecronics社などの部品メーカーが2006年になって静電容量が1pFを下回る素子の製品化に相次いで乗りだしている。

 既存のESD保護素子が使いにくくなっているのは,民生機器が備える入出力インタフェースが高速化しているためである。その代表的な例がデジタル映像信号の伝送用に薄型テレビやDVDレコーダーなどで採用が始まったHDMIである。HDMIを使って1080pの,いわゆるフルHD信号を伝送する場合の信号周波数は742.5MHz。これまで民生機器で使われてきた高速な入出力インタフェースであるIEEE1394やUSB2.0の信号周波数が200~240MHzであることを考えると,格段に高速である。