前編より続く

 TD-LTEがTDD通信の主軸になる─。このように考えられている最大の理由は,5億5000万人もの加入者を抱える世界最大の携帯電話事業者のChina Mobile社が,TD-LTEの普及に積極的に取り組んでいることにある(図4)。

 China Mobile社は第3世代携帯電話システムとして,2009年からTD-SCDMAという規格を導入している。同規格は,中国政府が「中国発の標準規格」と位置付けて強力に推進してきたものだが,これがなかなか離陸しない。サービスの開始が2009年と遅かったことに加え,中国地域でのみ利用可能であることから,W-CDMAやCDMA2000などの他規格に比べて携帯電話機の種類が圧倒的に少ないためだ。

†TD-SCDMA=第3世代移動通信システムの標準方式としてITUが提唱した「IMT-2000」において,承認された5つの方式の一つである。TDD方式を使って通信する。中国政府が先導して規格化した。

 なんとしてもこの状況を打開しなければならないChina Mobile社は,TD-LTEに関しては,FDD LTEと導入時期を同期させることを目指した。TD-SCDMAと同様の失敗を繰り返さないように,という狙いである。加えて,TD-LTEを採用することを積極的に喧伝することで,他国での利用促進も狙っている。

 China Mobile社の本気度は,その取り組みのスピードにも表れている。まず,2010年後半に北京や上海などの数都市で,世界の主要な基地局メーカーとともに,TD-LTE用基地局を100台以上設置した大規模ネットワークを構築する。2011年第2四半期まで実施する予定で,早ければ2011年夏にも商用サービスに移行する方針だ。

 2011年後半からは,中国全土への展開を加速するとみられる。中国全土にTD-LTEの網が張り巡らされることになれば,そのために大量の基地局が発注されることになる。当然,TD-LTE対応の通信端末も,大量に必要になるだろう。これらによる相乗効果で,TD-LTE関連機器のコストが一気に下がると期待しているのだ。

FDDとの共用に期待

 TD-LTEが注目される理由はほかにもある。それは基地局装置など,FDD LTE用のシステムをTD-LTE用に流用できることだ。FDD LTEを計画している事業者を見てみると, 1億人の加入者を抱える米Verizon Wireless LLC,8700万人の米AT&T Mobility LLC,合計1億人を超える日本の携帯電話事業者4社など,China Mobile社ほどではないものの,その規模は大きい。こうした携帯電話事業者向けの設備や機器をTD-LTE用に流用できるなら,中国のTD-LTEに加えて,その市場はさらに広がる。

―― 次回へ続く ――