日経エレクトロニクス

任天堂は最強のゲーミフィケーション実践企業

根津 禎=日経エレクトロニクス
2014/02/05 05:00
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 2014年1月30日に任天堂は経営方針説明会を開催した。ここ最近の苦境を脱するための施策を発表するためだ。あいにくこの説明会への参加はかなわなかったが、その内容は開催後、同社Webサイトに掲載された(サイトはこちら)。本ブログはその掲載内容を基にして執筆する。

 話を本題に戻そう。説明会では任天堂不振の最大の原因となっているWii U事業のてこ入れ策などについて紹介された。加えて、中期的な事業戦略についても明らかにした。中でも個人的に目を引いたのが、ビデオゲーム事業とは独立して立ち上げる新規事業である。娯楽の意味を「人々のQOL(生活の質)を楽しく向上させるもの」(同社)と再定義し、健康や教育などの分野に乗り出す。

 既に任天堂は、同種のことをゲーム事業で実践している。同社は、携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」シリーズや据え置き型ゲーム機「Wii」を投入してゲームの定義を拡大し、ゲームに関心の薄かったユーザーを積極的に引き込みながら、ゲーム人口を増やしてきた。例えばDSでは、語学学習や数字計算、家計簿、料理のレシピ本などをゲームに仕立てた。Wiiでは身体を上に載せて利用する体重計型コントローラーを2007年に発売し、体重測定や健康管理をゲームにした。

 こうしたDS用やWii用のゲームに加えて、3DSを美術館のガイド端末として利用できるソフトや、カーナビと連携できるソフトを提供している。娯楽の再定義はこうした路線を踏襲し、さらに拡大していくものだとみられる。とはいえ、あえて「ビデオゲーム事業とは別」と銘打っているので、QOL向上の事業はこれまでとまったく異なるアプローチを採るのかもしれない。

 QOL向上の最初のテーマとして任天堂が選んだのが健康である。これまでも任天堂は、健康分野に対して強い関心を寄せてきた。前述の体重計型コントローラーに加え、Wii U向けに活動量計も販売している。同社は、脈拍や呼吸などの人間の生体データを利用したゲームにも関心があるようだ。関連の特許を東北大学と共同で複数出願している他、2009年には脈拍などを検知できるセンサー端末「Wii Vitality Sensor」を発表している(関連記事1)。

 その後、このセンサー端末に関する情報は更新されていないが、あるアナリストによれば、「検出精度向上に努めており、その精度を限りなく100%に近づけようとしている」という。これはあくまで推測だが、単なるゲーム用ではなく、ヘルスケア機器や医療機器にも適用できる水準にまで機能を高めているのかもしれない。

 任天堂によれば、娯楽、つまりビデオゲームの開発などで培った、ユーザーに楽しく継続してもらうノウハウやもてなしのノウハウなどを活かして、健康分野において、継続が難しい定期的な運動などをユーザーが楽しみながら続けられるような仕組みを提供するという。これは、「人を思わず夢中にさせる仕組み」や「快適で使いやすいユーザーインターフェース(UI)」など、ゲーム制作の優れたノウハウを他分野に活かす「ゲーミフィケーション」の一種と言える。

 そもそも、ゲーム企業がそのノウハウを活かして、教育や健康分野に乗り出すのは珍しいことではない。例えば、バンダイナムコゲームスはゲーム制作のノウハウを活かしたコンサルティング事業を展開しており、リハビリ機器や教科書などを開発している。コナミはグループ会社でスポーツジム事業を手掛けている。

 任天堂は健康や教育分野だけでなく、将来は生活全般にかかわることを示唆している。それを裏付けるような特許もある。例えば、気圧センサーや温度センサー、湿度センサーなどを搭載した「環境センサユニット」をゲーム機の本体、あるいは外付け装置として搭載するための関連特許を出願している(関連記事2)。気圧や温度、湿度などのデータを基に空調機を制御したり、人の有無を確認したりできる。こうした特許から考えると、任天堂がHEMS(home energy management system)やホームセキュリティーにまでサービスを広げる可能性がある。

 判断材料が少ない現時点では、任天堂のこの新規事業が成功するかどうかは断言できない。ただ、個人的にはとてもおもしろいものが登場するのではないかと思っている。以前より、任天堂は最強のゲーミフィケーション実践企業になれると考えていたからだ。

 そう考えるようになったきっかけは二つある。一つは2010年に登場した「プレイステーション 3(PS3)」用地デジ視聴・録画キット「torne(トルネ)」の解説記事を担当したことである(関連記事3関連記事4)。torneでは、「マニュアル不要な分かりやすさ」や「気持ちいい応答」、「効果的な演出」といったゲーム制作のノウハウを活用し、快適で楽しい操作を実現した。実際触れてみると、一般的なHDDレコーダーよりも「サクサク」としている。そのあまりに快適な操作に衝撃を受け、思わず購入し、現在でも個人的に愛用している。このtorneで、ゲーム制作のノウハウを他分野に十分に生かせるを実感した。

 もう一つは、立命館大学教授のサイトウ・アキヒロ氏との出会いだ。同氏は20年以上、ゲームクリエーターとして活動してきた経験を基に、そのノウハウを体系化してまとめた「ゲームニクス」を提唱し、コンサルティング業務を行っている。例えば、カーナビや教育用電子機材などの開発に関わった。サイトウ氏の話は抜群におもしろく、そのコンサルティング成果もユニークなことから、同氏の書籍を企画・編集したり、セミナーを企画したりした(書籍紹介・購入サイトはこちら)。

 ゲームニクスは、任天堂から生まれたと言える。サイトウ氏はファミコン時代から任天堂と一緒に仕事をしてきており、この経験を基にしてゲームニクスをまとめたからだ。

 この二つの経験から、任天堂のQOL向上の新規事業に対して、強い関心を持っている。自分の予想通り成功するかどうか、今後も取材を続けていきたい。

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