SKYACTIV-G部品加工のイメージ
SKYACTIV-G部品加工のイメージ
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 「1個ずつ加工量を変えています」――。マツダのガソリンエンジン「SKYACTIV-G」についてそう聞いたとき、にわかに信じがたいものがありました。SKYACTIV-Gでは、14という非常に高い圧縮比を実現するために、部品の加工量を個体ごとに調整することで、圧縮比を大きく左右するパラメータである燃焼室容積のバラつきを抑えているというのです。

 SKYACTIV-Gの特徴は、前述の14という圧縮比によって熱効率や燃費といった性能を大幅に改善したことです。それを実現した設計上の工夫については、『日経ものづくり』2011年12月号の特集「高効率エンジン」などでも紹介してきました。ところが、高圧縮比の秘密は設計だけではなく生産にもあったというわけです。

 筆者が驚いたのは、個体単位で加工条件を最適化するという手法自体もさることながら、それをマツダが採り入れていたことです。というのも、同社は品質工学の使いこなしに定評があり、実際に多くの取材先から同社の取り組みを賞賛する声を聞いていたからです。ロバスト性を重視する品質工学の考え方と個体単位での加工条件の最適化は、相容れないように思いました。

 しかし、よくよく考えれば、理にかなっていることが分かります。従来は、ラインに投入する素材の寸法や、各工程の加工量などが一定の範囲に収まるように管理することで、燃焼室容積のバラつきを抑え、目標の圧縮比を実現していました。それならば、燃焼室容積そのものを管理することによって、より高い圧縮比を実現しようという狙いです。目的の性能に近いパラメータを管理することで、むしろロバスト性を高めているといえるかもしれません。

 もちろん、個体単位で加工条件を最適化することは決して簡単ではありません。ラインを流れる全てのワークについて各工程の加工前後に寸法などを計測し、個体ごとの状態に合わせて加工量をリアルタイムで調整するのです。一歩間違えれば、不良の発生や生産性の低下を招きかねません。

 こうした難しい挑戦を後押ししたのが、エンジン1基につき1万種類ほど取得している製造データです。綱渡りのように見える手法に挑めたのは膨大なデータの裏付けがあったからだと、マツダ技術本部パワートレイン技術部エンジン技術グループマネージャーの佐崎幸司氏は語ります。そもそも、品質工学の利点は、少ないサンプルデータからでも品質向上の指針を得られることです。そうした品質工学的なアプローチと大量のデータ(ビッグデータ)を組み合わせることで、これまでにない品質を実現できるようになったのが、同社の事例といえます。

 このように、ビッグデータを活用して品質を大幅に高めたり、異常予測などの新たなサービスを打ち出したりする例が増えています。日経ものづくり2013年7月号の特集「攻めのビッグデータ活用」では、マツダをはじめとする各社の取り組みや大量のデータを取得/分析する技術についてまとめました。ぜひご一読ください。