雑誌 2011年12月号 特集

高効率エンジン

クルマ、船舶、発電…設計力で限界を突破する

2011/11/22 19:06
 

 高効率エンジンの登場が相次いでいる。最も目立つのは自動車分野だ。マツダのコンパクトカー「デミオ」、ダイハツ工業の「ミラ イース」は、その果実である、ハイブリッド車に匹敵する優れた燃費を高らかにアピールする。自動車分野以外でも、船舶、発電、産業用でエンジンの効率を高める開発が活発だ。そうした開発現場では、「常識」を打ち破り、「限界」を超えるための闘いが繰り広げられている。
 「低燃費ならハイブリッド車」という「常識」に挑戦したからこそ、マツダから圧縮比が14と世界一のエンジンが生まれた。三菱重工業は、基本設計が20年以上前のガスタービンに、新技術を組み合わせて世界最高水準の発電効率を達成した。
 超えられないはずの限界を超える方法がここにある。(高田憲一、近岡 裕)

Q:どうしたら限界を超えられるのか?

 マツダのコンパクトカー「デミオ」が30.0km/L(10・15モード)、ダイハツ工業の軽自動車「ミラ イース」が32.0km/L(同)──。今、クルマの低燃費でエンジン車が底力を見せている。従来の軽自動車やコンパクトカーの燃費を超え、ハイブリッド車(HEV)と比べても遜色ない水準だ(図1)。

 例えば、ホンダのコンパクトカーのHEV「フィットハイブリッド」の燃費は30. 0km/L。デミオがこれに並び、車格は違うがミラ イースは2km回った。これまで「エンジン車は、燃費でHEVにはかなわない」といわれてきた。その「限界」を両社は超えたのだ。そして、この低燃費の達成に最も大きく貢献しているのが、新たに開発した効率に優れるエンジンである。

 限界を超えた果実は大きい。「低燃費ならHEV」という、世間に定着していた「常識」を覆し、多くの顧客の目を引き戻すことができるからだ。確かに、HEVの潜在的な低燃費性能はより高く、例えばトヨタ自動車の「アクア」は40km/L を達成した。その半面、「価格が高い」「車体が重い」という課題もある。事実、デミオと比べて、フィットハイブリッドの価格は約20万円高く、車両重量は約120kg重い。今後の顧客の選択次第で、自動車メーカーはエンジン車とHEVの間でより一層バランスのとれた開発が必要になるかもしれない。
〔以下、日経ものづくり2011年12月号に掲載〕

図1●30km/Lの「限界」を超えたエンジン車が登場
コンパクトカーと軽自動車における10・15モード燃費を比較した。これまで「低燃費」の代名詞だったHEVの1車種であるホンダの「フィットハイブリッド」の燃費に、マツダの「デミオ」が並び、ダイハツ工業の「ミラ イース」が超えた。エンジン車の方が価格が安く、車体が軽いという利点があることから、HEVへ集中していた顧客の関心をもう一度エンジン車に向けるきっかけになり得る。なお、トヨタ自動車が2011年11月に発表したHEV「アクア」は、排気量が1.5Lでありながら40.0km/Lと頭1つ抜けている。
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マツダ●自動車用ガソリン/ディーゼルエンジン

燃焼究め未開の圧縮比14に到達

 大きな変化が、マツダ車の売れ行きに起きている。「値引きを一切しない」(同社)にもかかわらず、高効率ガソリンエンジン「SKYACTIV(スカイアクティブ)-G」を搭載したモデルの販売が好調というのだ(図2)。例えば、2011年6月に発売したコンパクトカー「デミオ」では、高効率エンジン搭載車の価格が従来のエンジン搭載車より25万円も高いのに、同年9月までの販売比率は64%を占めている。

 SKYACTIV-Gや、それがもたらす低燃費には自動車分野のみならず、他分野のエンジン技術者も高い関心を寄せている。その理由は、量産向け自動車用ガソリンエンジンでは「不可能」とされてきた「14」という「高圧縮比」を、世界で初めて実現したからだ。従来はせいぜい12程度にとどまっていた。

 これにより、マツダは燃費を従来比で15%も高めることに成功した。同社は「(圧縮比が高く、原理的にガソリンエンジンよりも高効率な)現行のディーゼルエンジン並み」との表現にとどめるが、SKYACTIV-Gの最大熱効率は38~39%程度とみられ、現行の高効率と言われるガソリンエンジンから一気に5~6ポイントも高めたようだ。
〔以下、日経ものづくり2011年12月号に掲載〕

図2●高効率ガソリンエンジン「SKYACTIV-G」
圧縮比を高めるなどの工夫で、熱効率をディーゼルエンジン並み(40%弱とみられる)に引き上げた。直列4気筒の直噴ガソリンエンジンで、可変バルブタイミング機構を使ったミラーサイクルを採用している。「デミオ」に搭載した、排気量1.3Lの「SKYACTIV-G 1.3」で、量産化が「不可能」と見られていた14の高圧縮比を実現。SKYACTIV-G 1.3の最高出力は62kW(5400rpm時)で、最大トルクは112N・m(4000rpm時)。二酸化炭素排出量は77.4g/km。ボアは71mm、ストロークは82mm。

ダイハツ●軽自動車用ガソリンエンジン

既存技術磨き燃費を32km/Lに

 直前のpp.36-40で解説したマツダの「スカイアクティブ」のエンジンが新しい技術を積極的に投入する技術革新型とすれば、ダイハツ工業の軽自動車「ミラ イース」の低燃費エンジンは既存エンジンを徹底的に改良して効率を高めたものだ。既にやりつくしたと思えるガソリンエンジンであっても改良を極めればハイブリッド車レベルの燃費を実現できる。

 ミラ イースは、普通のガソリン車でありながら、10・15モードで32.0km/Lの燃費を達成した。これは、同社の「ミラ」と比較して、約40%の燃費が改善に当たる。そのうち、なんと14ポイントが高効率エンジンの貢献(制御最適化も含む)。しかも、ミラ イースのエンジンはミラと同じ「KF-VE」型エンジンなのだ(図3)。既存のエンジンを徹底的に改良し、大幅な効率化を実現している。
〔以下、日経ものづくり2011年12月号に掲載〕

図3●改良型「KF-VE」エンジン
ミラ イースは、ミラに比べて約40%燃費を改善しているが、そのうち14ポイントがエンジンの改良効果(制御の最適を含む)。改良型は燃費を重視したため、最高出力は38kWと改良前のエンジンを5kW下回っている。ただ、CVTの性能が向上したので、走行性能の低下はないという。排気量657mlの4サイクル3気筒エンジンだ。

ホンダ●コージェネ用ガスエンジン

10年鍛えた技術で総合効率92%

 ホンダは2011年5月、家庭用のコージェネレーション(以下、コージェネ)ユニット「MCHP1.0K2」の販売を開始した。その際、同ユニットの中核となるガスエンジンを一新した(図4)。最大の特徴は、アトキンソン・サイクルを採用したことだ。「開発を始めてから約10年。ようやく商品化することができた」と本田技術研究所汎用R&Dセンター第1開発室第0ブロックマネージャーの渡邉生氏は話す。

 新型エンジンは、船外機などに使う汎用エンジンをベースにした単気筒4サイクルエンジンだ。燃料には、都市ガス(天然ガス)もしくは液化石油ガス(LPガス)を使う。

 同エンジンに採用されたアトキンソン・サイクルは、約130年前に英国のJames Atkinson氏が考案した、圧縮比よりも膨張比が大きい高膨張比エンジンのことだ。燃焼ガスを大きな体積まで膨張させることによって取り出せる仕事量を増やせる。そのため、一般的なエンジン(オットー・サイクル・エンジン)よりも原理的に効率が高い。ホンダの新型エンジンは、アトキンソン・サイクルを導入したことで、発電効率が従来のエンジンから3.8ポイント向上し、26.3%を実現した。
〔以下、日経ものづくり2011年12月号に掲載〕

図4●新型ガスエンジンのカットモデル
アトキンソン・サイクルを採用した高膨張比エンジン。圧縮比が12.2であるのに対し、膨張比は17.6。発電効率は26.3%、熱回収率は65.7%なので総合効率は92.0%となる。

三菱重工業●発電用ガスタービン

冷却の最適化で発電効率61%超

 発電用ガスタービンにはエンジンの名前こそ冠されていないが、間違いなく主要なエンジンの1つである。その仕組みは、前方から取り入れた空気を圧縮機で圧縮し、これに天然ガスを混ぜて爆発的に燃焼させる。その際の膨張力でタービンを回して発電するというものだ。タービンを回さずにそのまま推進力として利用したのが、いわゆるジェットエンジンである。

 この発電用ガスタービンの分野で、これまでの常識から外れた機種が登場した。三菱重工業が2011年9月に発表した「M701F5形ガスタービン」(以下、F5形)である(図5)。

 F5形は、1989年に実用化されたF形ガスタービンをベースに、最新型タービンの技術を組み合わせ、発電効率を徹底的に高めて世界最高レベルに達している。
〔以下、日経ものづくり2011年12月号に掲載〕

図5●「M701F5形ガスタービン」の組立断面図
M701F5形ガスタービンは、F形の圧縮機、GAC形の燃焼器、J形のタービンを組み合わせている。
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三井造船●LNG船用ディーゼルエンジン

電子制御でガスと油を自在活用

 三井造船は2011年7月、燃料消費量をライバルに比べ13%以上減らしたLNG(液化天然ガス)船「DoubleEco MAX」を発表、受注活動を開始した。燃料消費の削減はズバリ、新開発の高効率ディーゼルエンジン「MEGI」の採用で実現したものだ。

 同エンジンは、燃料として重油と天然ガスの両方を使える2元燃料タイプ。2種類を混焼させることも、燃料の価格変動に合わせて最も低コストになるように重油と天然ガスを使い分けることも可能だ。従って、重油の価格が高いときはタンクから蒸発した天然ガスを主に使い、逆に重油が安いときには重油を燃料にする。この場合、余った天然ガスは船内にある再液化装置を通して再びLNGにしてタンクに戻せばよい。

 後述するように、三井造船ではこうした2元燃料エンジンの開発が一時中断に追い込まれた。この「壁」を乗り越えて実用化にまでこぎ着けたのは、ライバルをしのぐ高い効率を実現した独自技術があったからだ。
〔以下、日経ものづくり2011年12月号に掲載〕

クボタ●産業用ディーゼルエンジン

高圧噴射を投入しPMを1/10に

 「規制はチャンスだ」。クボタエンジン事業部長執行役員の佐々木真治氏は言う。同社は、農業機械や建設機械、産業機械などに搭載する産業用小型ディーゼルエンジンを開発する。このオフロード(非自動車)分野で使う産業用ディーゼルエンジンにおいて、2012年1月から極めて厳しい「第4次排ガス規制」が米国と欧州でスタートする。これをクボタは、競合他社に差を付ける好機と捉えているのだ。

 例えば米国の同規制は、出力56k~130kWの産業用ディーゼルエンジンに対し、窒素酸化物(NOx)を3.4g/kWh以下に、ススを主成分とする粒子状物質(PM)を0.02g/kWh以下に抑えることを求めている。特に厳しいのが後者のPMで、現行の規制(第3次排ガス規制)の1/10以下に減らす必要がある。現行の規制までは通用した機械式制御(機械式燃料噴射ポンプなど)ではクリアできない厳しさだ。とはいえ、この規制をクリアできなければ、欧米市場で産業用ディーゼルエンジンを販売することが難しくなる。

 この「限界」の規制を、クボタは世界で最初に乗り越えた。排気量3.8Lの産業用水冷式ディーゼルエンジン「V3800-CR-TE4」が、2011年7月1日に米国カリフォルニア州大気資源局(CARB)から第4次排ガス規制の適合認証を取得したのである。
〔以下、日経ものづくり2011年12月号に掲載〕

eスター●発電用スターリング・エンジン

排熱利用で熱効率14%超

 「東日本大震災の後、問い合わせが以前の3倍に増えた」。パナソニックのベンチャー企業でスターリング・エンジンの開発を手掛けるe スター(本社大阪市)CEOの赤澤輝行氏は言う。震災でニーズが高まった節電対策として、排熱を使って発電するスターリング・エンジンへの期待が高まっているのだ。

 同社のスターリング・エンジンは、同じく排熱を使う蒸気タービン発電システムに比べてコンパクトで使いやすい。例えば、2011年10月に運航を開始したセメント運搬船「鶴洋丸」には、わずか1mの長さの排気管にスターリング・エンジンを取り付けている。熱交換器や補機類の多い排熱蒸気タービン発電システムは搭載できなかった。

 熱源さえ確保できれば、天候などに稼働率が左右されない点も魅力だ。「太陽光発電の稼働時間は年間で約1000時間だが、スターリング・エンジンのそれは約8000時間。従って、8倍早く償却できる」(同氏)。それでいて効率にも優れる。熱源の温度次第で熱効率は約14(高温側300℃程度)~30(同800℃程度)%と、約10~30%程度のガソリンエンジンと比べても遜色ない。赤澤氏は「300℃と比較的低い排熱(熱源)から14%の高効率を得られるのは当社だけ」と胸を張る。
〔以下、日経ものづくり2011年12月号に掲載〕

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