機械の稼働状況や生産現場の作業履歴など、これまで捨てていた大規模データ「ビッグデータ」を有効活用しようとする動きが製造業でにわかに盛り上がっている。とりわけ活発なのは、問題が起きる前に品質や生産性を高めたり、問題を未然に防ぐサービスを提供したりするといった、「攻め」のビッグデータ活用である。ビッグデータ活用が切り開く新しいものづくりの姿を追う。(高野 敦、木崎健太郎、大石基之)

最新動向編:ビッグデータが不可能を可能に
新たな取り組みやサービス続々

 自社の生産設備や販売後の製品から日々生み出される膨大なデータが、製造業に大きな変革をもたらそうとしている。いわば製造業版のビッグデータによって、これまで不可能と思われていたようなことが可能になりつつあるのだ。

 例えば、マツダはガソリンエンジン「SKYACTIV-G」の製造にビッグデータを活用している。主要部品であるシリンダブロックやシリンダヘッドを工作機械で加工するたびに、加工量やサイクルタイムなどのデータを個体単位で記録する。ただし、単に記録するだけではない。そのデータに基づいて個体ごとにリアルタイムで加工条件を調整し、ガソリンエンジンとしては非常に高い14という圧縮比を達成している(図1)。すなわち、量産品でありながら個別受注品のように造ることで、圧倒的な性能を実現したのである(マツダの事例は、pp.30-31を参照)

 ビッグデータを活用した新サービスに踏み出す企業も出てきた。板金加工機械などのメーカーであるアマダだ。同社が2013年5月に開始した顧客向けサービス「AMDAS(Amada Maintenance DigitalAnalysis Support)」で目指すのは、「機械の稼働を保証すること」(同社執行役員エンジニアリングサービス本部長の大貫正明氏)。具体的には、機械の稼働状況をリアルタイムで監視・分析し、異常の予兆を捉えて機械が故障する前に同社のサービス技術者が対応する体制を構築した。故障してからサービス技術者が駆け付ける従来型のサービスと一線を画すものだ(アマダの事例は、pp.34-35を参照)。

外部提供で新たな価値

 従来、製造業においてビッグデータが全く活用されていなかったわけではない。例えば、生産設備や製品の稼働履歴などを記録しておき、生産ラインで不良品が発生したり販売後に製品が故障したりした場合に、そうしたデータを参照して問題を解決することは一般に行われてきた。しかし、これから重要になるのは、問題が起きる前に品質や生産性を高める、問題を未然に防ぐサービスを提供するといった「攻めのビッグデータ活用」である。

 ビッグデータ活用の方向性は、[1]自社の業務に役立てる、[2]顧客の利便性を高める、[3]外部の知見と組み合わせることで新たな価値を生み出す、という3つに分類できそうだ(図2)。

〔以下、日経ものづくり2013年7月号に掲載〕

図1●マツダのビッグデータ活用
図1●マツダのビッグデータ活用
エンジン部品の機械加工ラインにおいて各工程で加工結果を逐一記録し、その分析結果に基づいて個体単位で加工条件を調整(最適化)する。
図2●ビッグデータ活用の分類と取得・分析技術の位置付け
図2●ビッグデータ活用の分類と取得・分析技術の位置付け
[1]のように自社内で活用するだけではなく、[2]のように分析結果を顧客に提供したり、[3]のように外部の知見と組み合わせたりと、さまざまな活用法がある。こうした活用法を実現する取得・分析技術の実用化や開発も進んでいる。

参考文献:1)高野,「故障を予測する」,『日経ものづくり』2012年6月号,pp.32-49.