そのSAS社は現時点でも日本でそれほど知名度の高い会社ではありませんが、ユニークな会社です。2012年の秋に同社PresidentのDoris Hsu氏に取材する機会がありましたが、そのときにいろいろな話をして、「この会社ならばコバレントシリコンを立て直せるかもしれない」と感じました(詳細は、日経ものづくりの2012年11月号の特集「海外に任す」に掲載)。SAS社の社風を一言で表せば、「質素」。台湾の企業らしく、徹底した低コスト経営を標榜する会社です。SAS社は1998年から2011年までの過去13年間で売上高を約40倍に増やし、約225億台湾ドル(約698億円)に達しています。この13年の間に、2001年のITバブル崩壊、2008年のリーマン・ショックを経験しましたが、SAS社はただの一度も赤字に陥りませんでした。赤字知らずの優良企業であるSAS社はコバレントの再建請負人としては最適な存在です。

 コバレントシリコンを買収後、初顔合わせとなった2012年4月初頭に、Hsu氏は「SAS社はコバレントシリコンを売却する気はない。家族の1つと考えている」と約束したといいます。投資ファンドなどに振り回され、会社の将来に疑問を持っていた社員をまず安心させるのが狙いでした。

 これと同時にHsu氏は構造改革に着手しました。会社を立て直すために、まず組織構成を簡素化しました。従来は社長から社員まで7~8階層も存在していましたが、執行役員や本部長の職を廃止し、社長・部長・課長・社員の4階層に減らしました。日本の企業では、多くの階層が存在する組織構成はなかば当たり前のように見られてきましたが、台湾企業からするとスリム化すべきものに映ったとのこと。2013年1月にはコバレントシリコンをグローバルウェーハズ・ジャパンへと社名変更し、Hsu氏はこのグローバルウェーハズ・ジャパンの代表取締役会長に就いています。

 今後も、「日本の常識」でありながら、「世界の非常識」となっていることにHsu氏はどんどんメスを入れていくと思われます。それがうまくいき、結果としてグローバルウェーハズ・ジャパンの競争力が向上し、同社で働く技術者にとってのやりがいが増すことを願っています。

 ここから先は宣伝です。日経BP社では、日本の製造業が海外を中心とするEMSやODM企業などとどのように付き合っていけばよいかを探るためのセミナー「EMS/ODMとどう付き合うか」を2013年3月8日(金)に開催します。本コラムでも紹介した、Doris Hsu氏に、このセミナーでご講演いただきます。グローバルで事業展開するHsu氏が、グローバルウェーハズ・ジャパン(旧コバレントシリコン)を今後どのように舵取りしていくか、その戦略には多くの国内製造業の関係者にとって有益なヒントがあると確信しています。ご興味のある方、是非ともご参加いただきたくお願いいたします。詳細はこちら