――井上さんは、どのような形でドラマづくりに協力したのですか。

 脚本作りのための取材協力です。日本の電機メーカーや自動車メーカーで今起こっていることを総合的に伝えたつもりです。例えば、リストラの現実、中国や韓国の会社に転職した技術者の現状など、私が取材を通じて知っていることを脚本家の方や制作スタッフの方々に伝えました。かつて私は朝日新聞の経済部記者時代、Carlos Ghosn氏が来る直前で経営破たん寸前だった日産自動車を担当していましたが、倒産しそうな会社がモデルですので、その時の取材経験なども語りました。

 またドラマでは主人公を追い回す新聞記者も登場するのですが、新聞記者の持ち物(ペンなど)や新聞社内の雰囲気、ゲラ刷りがどんなものなかなどについても説明しました。

 断っておきますが、あくまでも私の協力は極一部にしか過ぎません。NHKは海外も含めて100人近い企業関係者に取材して脚本に反映させたそうです。お世辞ではなく、NHKが足で稼いだデータと一流の脚本家の表現力がうまく融合していると思います。

――そうした協力に当たり、井上さんはどのような思いをこめたのでしょうか

 私が執筆している「Tech-On!」のコラム「グローバル市場で負けないものづくり」では、よく日産自動車の事例を出します〔日産改革から学ぶべきこと(前編)日産の設計革命、脱プラットホーム共有化戦略〕。倒産寸前だった会社が10年余りの間でよみがえり、営業利益率でトヨタ自動車を追い越すまでに復活したことは、すごいことだと思っているからです。

 日産復活のポイントは、コスト削減に加えて、人材の活用術を大きく変えた点にあると思っています。一言でいえば、グローバルに適材適所ができる社内システムを構築しているのです。そして、過去を健全に否定できる人材や摩擦を恐れない人材が増えているように思います。この結果、日産は逆境に強い会社になりました。

 要は、古くて新しいテーマですが、企業は「人」で決まるのですね。さらに言えば、モチベーションや覚悟など、人の持つ内面的なものが競争力を左右していると思います。これは決して数値では計れません。グローバル競争の時代とは、多様な価値観同士のぶつかり合いでもあり、人間の中身が問われる時代でもあるのです。語学ができても中身の薄い人材は海外では一目置かれません。グローバル時代の企業人材とはどうあるべきか、根本的なところから考えなければいけないと思います。

 日本の電機メーカーの苦境は、設備投資の失敗や円高、韓国企業との競争に負けたことなど様々なことが挙げられていますし、私もそうした記事を書いています。しかし最近は、これだけが理由ではなく、経営人材の劣化や社員のやる気の喪失など「人」に関わる点が本質的な理由ではないかとの問題意識を持ち始めています。異質な人材を排除し、それが新しい価値の創出を阻み、競争力を低下させているように思えてなりません。

 そうしたことが問題提起できるドラマになればいいな、と個人的には思いながら協力してきたつもりです。