近年、生物の仕組みや形状、構造などを工業製品に応用する生物模倣技術(バイオミメティクス)があらためて注目されている。生物は、長い進化の末に、少ないエネルギで高効率に機能する形状や、常温・低圧という通常の環境で複雑な構造を形成する仕組みなどを獲得した。そうした自然の知恵を工業製品に取り入れようというのが、バイオミメティクスである(日経ものづくり特集記事)。

 特に2012年は、「生物多様性を規範とする革新的材料技術」(生物規範工学)が科学研究費助成事業における新学術領域研究として採択されるという新しい動きがあった(Tech-On!関連記事1Tech-On!関連記事2)。大学や研究機関、企業が生物学や博物学、材料科学など学問分野の枠を超えて技術や知見を融合し、生物に関する新しい技術体系を構築することを目指したものだ。これによって産官学の連携が進めば、バイオミメティクスの研究、特に新材料の開発を後押しするものになると期待されている。

図1 生物規範工学の採択を受けた公開ワークショップ
図1 生物規範工学の採択を受けた公開ワークショップ
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図2 ワークショップでの講演資料
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環境とナノテクが後押し

 実は、生物を工業製品開発のヒントにするという取り組みは、必ずしも目新しくはない。古くは野生ゴボウをヒントにした面ファスナーなどが有名。しかし、近年の省エネルギや環境負荷低減に対する意識の高まりによって、あらためて省エネで低環境負荷の生物の仕組みが見直されているのだ。特に、日本では、2011年3月の福島第一原子力発電所の事故を契機に以前にも増して環境やエネルギへ関心が寄せられるようになった。このことから、バイオミメティクスに対する期待も一段と高い。

 加えて、ナノテクノロジーの進展で生物の微細構造などを人工的に模擬できるようになってきたことが、近年のバイオミメティクス再評価の背景にある。例えば日東電工は、カーボンナノチューブを利用してヤモリに近いせん断接着力を実現する粘着材「ヤモリテープ」を開発。2012年2月に分析用途における実用化を発表した。2015年には一般用途での実用化を目指している。