写真付きの友人の投稿がFacebookで届いた。写っているのは、緑の芝生がまぶしいボールパーク。米国テキサスにいるらしい。ダルビッシュ投手と、イチロー選手について書いた投稿のコメント欄は、僕の知っている友人の友人から、知らない友人の友人まで「うらやましい」の大合唱である。

 仕事をするフリをしながらメジャーリーグ中継のワンセグ映像をこっそり横目に見つつ、その同時性にインターネットのすごさを今さらながら痛感する今日この頃。最近はSNSでの振る舞いが原因で、恋人や奥さんとの仲違いを体験した話を身近な人から立て続けに聞いたりして、ソーシャル・メディアが日常生活に食い込んでいる感覚は本物だと、思うのである。

 テレビ中継の映像と、試合会場にいる友人の実況をほぼ同時並行で知ることができるということは、合コンなんて大変だろう。みんなで手洗いに行って作戦会議とか、もうそんな時代ではないはずと想像は膨らむ。急に都合が悪くなって行けなくなったら、本当は参加するはずだった会の途中経過を、じりじりしながら嫌でもスマホの画面で見せられるはめに陥るわけですよ、きっと。もちろん、むしろホッと胸を撫で下ろすこともあるだろうけれど。

テキサス発、世の中を大きく変えた発明

 大変な時代になった。北アフリカでSNSによる革命が起きたという話も、ようやく少し理解できる印象である。こんな世の中を作り上げる礎になった発明の地。その一つは、テキサスだ。

 「苦労して発明した技術を、なぜプラスチックのスプーンと同じ値段で売らなければならないんだ」

 日米の半導体摩擦が吹き荒れた1980年代。テキサスでは、こんな言葉が交わされていたそうだ。「苦労して…」という発明は、半導体集積回路の基本技術である。いわゆる、キルビー特許。ノーベル物理学賞者のJack Kilby氏による発明である。世の中で動く電子機器のすべてに、大なり小なり必ずICが使われているのだから、その威力はすごい。この発明なくしては、今の情報社会も、インターネットも、恐らくない。その発明をKilby氏が所属していた米Texas Instruments社が懸命に売り込もうとしていた。相手は、日本の半導体メーカーである。

 Kilby氏によるICの発明は1958年のこと。特許制度や国策、メーカーの戦略など、いろいろな偶然やら思惑やらが重なり合って、日本ではキルビー特許が1960年の原出願から29年後の1989年に成立した。

 特に、誰かが隠していたわけでも、隠れていたわけでもない。最初に出願された特許(キルビー249特許、特許第320249号)は、1977年6月に17年間かかってようやく成立して、その後わずか3年で権利満了となった。平成に入って成立したキルビー特許は、実は2件目である。分割出願した特許で「キルビー275特許」(特許第320275号)と呼ばれる(関連記事はこちらこちら)。