半導体集積回路(IC)に関する基本特許の中の1つ。モノリシック型の半導体基板上に回路を形成して配線するという特許である。「キルビー特許」とは,発明者である米Texas Instruments Inc.のJack S.Kilby氏の名に由来する。日本における正式な発明名称は「半導体装置(特許第320275号)」で1989年10月に成立した。

 「キルビー特許」と呼ばれる特許は,実は国内で2度成立している。最初の特許(特許第320249号)の成立は1977年6月。この特許は特許番号の下3ケタをとって,「キルビー249特許」と呼ばれる。この特許は成立から3年後の1980年6月に権利満了となった。もう一つの1989年に成立したキルビー特許は,最初の特許と区別するため「キルビー275特許」と呼ばれる。

 特許の明細書では,モノシリック型の半導体基板上に2つのトランジスタを形成し,抵抗やコンデンサをつなげたマルチバイブレータ回路を例に説明している(図)。この図面は,電子回路の「集積化」という概念を表現している。しかし,空中で配線して素子間を相互接続しており,現在の接続方法と異なる。むしろ,トランジスタ素子のpn接合部を酸化膜で覆い絶縁物として利用し,その上に蒸着金属で配線を形成する,というプレーナ集積回路のほうが,現在のICで用いられている構造に近い。一説によれば,特許出願時点では,有効な接続方法が見つかっておらず,後に請求項で絶縁物上に配線することを記したのだという。

 キルビー特許といえば,国内ではTI社と富士通の特許紛争が有名である。1991年に富士通は同社の半導体製品が,TI社所有のキルビー275特許に抵触しないとする無効確認の裁判を起こした。同時にTI社も,同社の保有するキルビー特許を富士通が侵害していると訴えを起こす。2000年4月,最高裁が富士通側の主張を認める形で終結した。

米国で成立したキルビー特許で使われているICの配線方法に関する図 図 米国で成立したキルビー特許で使われているICの配線方法に関する図
(米国特許より引用<2001年3月26日号より抜粋>)