写真1 ソニーの「サイバーショット DSC-TX300V」を分解
写真1 ソニーの「サイバーショット DSC-TX300V」を分解
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 「これは分解するしかないでしょ」――。

 2012年1月30日。あるデジタル・カメラの発表をきっかけに、日経エレクトロニクス分解班は盛り上がります。

 盛り上がりの中心は、ソニーが開発したコンパクト型デジタル・カメラ「サイバーショット DSC-TX300V」( Tech-On! 関連記事)。スマートフォンなどの機器と連携する機能を備えているのが特徴ですが、それだけではありません。リリース文を読むと、スマートフォンとの連携機能に利用する無線LANだけでなく、ワイヤレス給電にTransferJet、さらにGPS。まさに、無線技術“てんこ盛り”のデジタル・カメラだったのです。ついでに防水・防塵と、抜かりはありません。

 2012年3月9日。発売日に家電量販店に向かいます。お店まで走るのはもちろん、分解班の下っ端の筆者です。特に並んだり盛り上がったりすることもなく、無事お目当てのブツをゲット。機能を確認すべく、週末を利用して試します。

 数日後。いよいよ分解開始。今回も技術者の協力を得て作業に取り掛かります(写真1)。だけど、なかなか開かない。確認できた2本のネジを外してもびくともしない。その後、20分ほど格闘して何とかこじ開けることができました。その後も、いろいろなところに隠れているネジを探しつつ、悪戦苦闘の末、分解することができました。通常のデジタル・カメラに比べて格段に多い部品数と組み立て工数に、分解に協力した技術者も驚きを隠しません。

 分解の詳細は 2012年4月2日号のインサイド「ワイヤレス給電にTransferJet、無線技術満載のカメラを分解」でご確認いただきたいのですが、Editor’s Noteでも一部をご紹介します。

サーミスタで温度管理


 個人的に特に注目したのは、ワイヤレス給電の安全性についてでした。分解した機種は、ワイヤレス給電やTransferJetに対応するため、専用のクレードル「マルチステーション」を同梱しています。そのクレードルの内部を確認してみると、ワイヤレス給電用の送電コイルの中央部にサーミスタ(温度センサ)があったのです(写真2)。

 ワイヤレス給電では、クレードルとカメラの間に金属などの異物が挟まると発熱を起こす可能性があります。そこでソニーは、サーミスタによって温度を測定し、「ある一定以上の温度まで上昇するとワイヤレス給電機能を停止するように制御している」(同社)のです。ソニーがワイヤレス給電機能を搭載するデジタル・カメラを製品化するのは今回が初めてで、念入りに安全性を高めている様子がうかがえました。

 もう一つ、本誌の記事では誌面の都合で触れていませんが、実はカメラ・モジュールも新規に開発しています。興味深かったのは、レンズに入る光の量を減少させる減光(ND:neutral density)フィルタの実現方法。通常、カメラ・モジュールの中にNDフィルタを1枚設けて、オン/オフの際に機械的に挿入/抜去します。これに対して今回の新機種では、液晶パネルを配置して光の侵入量を調整しているのです。「フィルタの可動部を無くせる分、小型・薄型化できる」(ソニー)ようです。

次の獲物はLytro


 「おっ、出荷始まった」――。

 DSC-TX300Vの作業真っ只中のある日、分解班は次の獲物を見つけてしまいました。撮影後にピント位置を変更できるカメラ「Lytro」です。Lytroの技術は「ライトフィールド・カメラ(light field camera)」という撮像方法に基づいています。具体的には、撮像素子の前面に配置したマイクロ・レンズ・アレイを用いて、一つの光景を捉えた小サイズの画像群を撮影します。これらの小画像群に付加した光学情報を基に、任意の位置にピントを合わせた画像を、撮影後の画像処理で合成します。

 Lytroは米国を中心に大きな関心を集めており入手に苦労しましたが、何とかゲットすることができました( O先輩、ありがとうございました!)。普通のデジタル・カメラとの違いは?、マイクロ・レンズ・アレイはどうなっているのか?、画像処理の仕組みは?、気になることが山ほどあります。ただ今、張り切って準備を進めておりますので、分解でき次第ご紹介させていただきます(写真3)。

写真2 クレードルの基板。送電コイルの中央にはサーミスタ(水色の部品)があった
写真2 クレードルの基板。送電コイルの中央にはサーミスタ(水色の部品)があった
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写真3 分解を待つ「Lytro」
写真3 分解を待つ「Lytro」
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