実際の海外工場を運営する方向けの実務書です。

 弊社は、『新興国に最強工場をつくる』(佐々木久臣著)という書籍を2011年10月17日に発行いたしました。著者の佐々木氏は、日本だけではなく、欧州や米国、中国、ASEAN加盟国などで、経営者や指導者として実際に工場を運営してきた方です。本書は、その経験を基にまとめた、その名の通り、新興国に最強工場をつくるための実務書です。

 私は、この書籍の担当編集者なので最初に読むことができました。その際、「なるほど、そうだったのか」と唸るような事例や視点が幾つもありました。その1つが米General Motors(GM)社の調査団の事例です。

 GM社は日本流生産方式を学ぶために調査団を日本に派遣したことがあります。佐々木氏は1978年と1981年の調査団の引率係を務めました。その際に出た質問に、「かんばん方式で生産管理を行っているが、フォークリフトの運転手がカンバンを破って捨てたら生産ができなくなる。従業員を信頼することを前提とした仕組みで問題はないのか」というものと「サプライヤーが組立ラインの脇に部品を直接納品しているが、サプライヤーが数量不足で納入したり、不良品を混ぜて納入したりしたらどうするのか。サプライヤーを信頼することを前提とした仕組みで問題はないのか」というものがあったそうです。GM調査団は、日本のものづくりが従業員やサプライヤーとの信頼関係を前提に構築されていることが信じられなかったのです。

 質問を受けた日本の自動車メーカーの経営者は、「カンバンを捨てたり」「サプライヤーが不良品を混ぜて納入したり」することなど想定すらしていませんでした。しかし、著者の経験によると、世界のほとんどの国々ではGM社の認識の方が正しく、日本が特殊なのです。しかも、これは今も変わっていないようです。実際、著者はある国でサプライヤーから故意に不良品を混ぜられた部品を納入されたことがあるそうです。

 GM調査団の2つの質問をよく考えてみると、日本企業が海外生産に乗りだすときに真っ先に解決しなければならない問題が、従業とサプライヤーの意識改革であることを示しているといえるでしょう。そのために必要なことは何かを著者は考え続け、まず「常に改善活動可能な労使関係を構築し、それを自社だけではなくサプライヤーにまで広げること」(同書)が必要という結論にたどり着きます。

 海外工場の立ち上げや、品質・生産性向上の指導に当たっては従来、「(従業員とサプライヤーの意識改革を進めるための)人事労務管理やサプライヤー管理といった経営の基盤整備がまず必要であるのに、日本から『現場の神様』を派遣するという対応に終始していた」(同書)。これに対し著者は、生産方式の移植の前に、常に改善活動可能な労使関係を確立する必要があると主張します。

 本書では、現地の従業員やサプライヤーを戦力化するための第一歩となる常に改善活動可能な労使関係を構築するための具体的手法を詳細に紹介しています。もちろんそれだけではなく、品質と生産性を高めるための具体的な手法や適切な利益管理の手法などを解説しています。さらには、こうした手法を統合して工場の実力を見える化する、著者オリジナルの「7M+R&D(なな エム プラス アール アンド ディー)アプローチ」の全容を初めて紹介しています。手前みそで恐縮ですが、海外、特に新興国で工場を運営する方やマザー工場のさらなる強化を目指す方にとって、実務に役立つ本ができたと思っています。