つまりトヨタは、日本型サプライヤーシステムをグローバル化する試みを90年代から営々として続けてきたのであるが、「夾雑物に近い系列慣行」が競争力を下げる側面があり、一方で欧米メーカーはむしろ純粋に日本型システムの良いところを取り込んだ、ということである。

 この視点は、今回の問題を考えるうえでも、新興国市場戦略を考えるうえでも、重要だと思われる。つまり、「夾雑物に近い系列慣行」が、系列以外の部品メーカーとの円滑な協力関係の構築を阻害している可能性である。

 例えば、中国市場では、日本の自動車メーカーは日系の部品メーカーとの取引が多く、日本におけるクローズドな関係を持ち込んでいる面がある、という指摘がある(以前のコラム)。こうした日本型システムは確かに、前述したように安全性などの制約条件が厳しい環境下では有効性を発揮する。

 しかし、あまり行き過ぎるとコスト競争力だけでなく、「夾雑物」がさまざまな問題を引き起こす可能性を再点検した方がよさそうだ。例えば、いったん開発負荷が高まって、外部のサプライヤーの比率を高めたときに、今回のように「すき間」を突くような問題が起きるということは、今回のリコール問題から汲み取るべき教訓の一つかもしれない。


 トヨタはさまざまな危機を乗り越えて成長してきたと言われる。1950年には経営危機に陥り、人員削減に伴う大規模な労働争議が起こった。この危機を乗り越える過程で同社は「売れるものを売れる時に売れるだけ作る」という「限定生産」の思想を体得し(『能力構築競争』p.155)、トヨタ生産システムなどの日本型システムへと発展させた。それはまた日本の「ものづくり力」の象徴ともなった。

 また、同社はあらゆる部門で高い危機意識と問題発見能力を保持していると言われる。同社の社員は、外部から良いところを褒められるよりも、悪いところや課題を鋭く指摘された方が喜ぶとも聞く。その意味で、今回のリコール・品質問題をとりまく状況は、見ようによってはむしろ同社にとって学ぶことだらけのチャンスなのかもしれない。この危機を乗り越えた先に、新興国市場における「雄」としての新しいトヨタが生まれることを期待したい。