ここに至って中国の民族系自動車メーカーもボディ設計能力など,買えないものもあるということに気がついたようである。加えて,基幹部品や設計・製造サービスなどを外資系メーカーから買っていては,外資系メーカーを儲けさせるだけで,民族系自動車メーカーはちっとも儲からないという不満も噴出してきた。こうして,民族系自動車メーカーは過度な垂直分裂志向を反省し,垂直統合志向を強めつつあると,丸川氏は見る。

やはり懸念は「人材」

 ただ,果たして中国の民族系自動車メーカーがボディ設計,エンジン,トランスミッションなど,長い習得期間を要する自動車の核心技術にキャッチアップできるかどうかは,疑問が残ると丸川氏は語っていた。一つの懸念は高い人材流動性である。これは携帯電話など他の製品分野でもよく見られる現象だそうだが,調子の良かった企業が突然ガクッと競争力を落とすことがある。その理由として開発スタッフが丸ごと他社に転職したりすることがままあるそうである。自動車分野でも,これから民族系自動車メーカーがスキルアップに成功したとしても,ある段階で開発陣が丸ごといなくなるリスクは十分考えられる。そのため,垂直統合を志向しつつも,垂直分裂的な外部資源に頼る体質は当分続くと丸川氏は見ていた。

 こうした状況の中で,2008年に入って日系自動車メーカーはその高い品質が評価されて,ようやく本領を発揮してきた。シェアも上り調子である。当分,日系メーカーの優勢は続くと見られる。ただし,外資系の自動車・自動車部品メーカーに対する対抗心や民族意識が高まっているというリスクは考慮すべきだとする。

 また,丸川氏の指摘で考えさせられたのが,日本メーカーが過度に垂直統合的な側面があるという点である。例えば,欧州の部品メーカーは,中国にある多くの自動車メーカーに供給しているのに対し,日系の部品メーカーは明らかに少なく,日本のクローズドな構造を中国にも持ち込んでいる。こうした体質がコスト競争力などの面で今後弱点にならないのかどうか,気をつける必要はあるだろう。

本格モジュラー化は中国の外から

 また,筆者が関心があったのは,中国メーカーの「垂直分裂」構造の先により高度なモジュラー化の可能性あるかどうかであった。中国メーカーが「垂直分裂」を可能にしたのは,どのメーカーの部品を持ってきても互換性を持たせたことにあるが,それはもともと互換性がないものを,無理やり互換性があるように見せかけている,という戦略のもとに成り立っている。

 無理やりであるから品質面では無理が出てくるのは当然であるが,将来的に本格モジュラー化する可能性はあるのだろうか。講演後の質疑応答でそのあたりを質問させていただいた。丸川氏の答えは,本格モジュラー化には,業界全体でインターフェースの標準をつくるような集団的行為が必要だが,中国メーカーは各々我が強く一緒に何かをしようというマインドは少ないとのこと。このため,中国内部からアーキテクチャを変えるような動きは出にくく,あるとすれば中国以外のところでモジュラー化の波がおこってこれが中国に波及するというシナリオ展開しか考えられない,とのことであった。