電気自動車や2次電池の開発が活発化する中で、電池価格が関係者の想定通りに下がって将来的に電気自動車が本格普及したとしたら、クルマは“パソコン”のようになるのではないか、といった議論が再燃している。そうなると、日本のパソコンメーカーが苦境に陥ったように、日本の自動車メーカーも大変なことになるのではないか、というわけだ。

 例えば日経ものづくり誌は、2009年9月号の特集「電気自動車の真実」で、電気自動車の産業構造は、パソコンや薄型テレビなどのデジタル家電と同様に、外部から部品を調達して組み立てる「水平分業化」と標準仕様書通りに電気自動車が作られる「標準化」が進んで、コモディティ化が進むと予測している。その結果、同質化競争に陥り、低価格競争による消耗戦が展開される可能性があるとする(本誌p.50)。

 その水平分業化や標準化に熱心なのが欧米メーカーだ。例えば、2009年5月にノルウェーで開催された電動車両のシンポジウム「EV24」では、オーストリアのMagna Steyr Fahrzeugtechnik社が、標準化された各モジュールを組み合わせるためのトポロジー(接続形態)を提案した(『日経エレクトロニクス』2009年6月15日号p.64または『ハイブリッド車/電気自動車総覧2009』p.209)。これは、モータなどの駆動や回生に使う装置、蓄電装置、充電装置といったモジュールをどう接続したらよいかを示した電気自動車の標準仕様書のようなものだ。これにより、「標準化されたモジュールを買えば、自動車メーカーでなくともクルマを作れる可能性が出てくるかもしれない」という。

 ただし、“パソコン”または“レゴブロック”のようにモジュールの組み合わせでクルマを作ろうという発想や試みは昔からあり、電気自動車が初めてではない。例えば、ドイツDaimler社(当時はMCC社)は、小型車「smart」をフランスのアンバッハ工場で1990年代の初めから生産しているが、7社のサプライヤーが供給するモジュールを組み付けるだけで,車両のほぼ90%を完成させている。その後、こうしたモジュール生産を進めようという動きが活発化したが、日産自動車のようにサブラインとしてモジュールラインを部分的に導入するメーカーはあったが,モジュールを外部調達して業界全体を水平分業化するといった大きな動きにはならなかった。

 理由の一つとしては、前々回のコラムで見たように、日本の自動車産業では特に、モジュールの外部調達を進めると、かえって部品種類数の増加や共通化比率の低下をもたらし、コストアップになるという事情があると思われる。このため、社内またはグループ内で最適な状態になっており、外部調達はハードルが高くなる。

 外部調達のハードルを低くするためには、モジュール間のインターフェースを標準化して、市場に広く出回っているどのモジュールを購入しても互換性があり、同じように組み付けられるという状況を作り出す必要がある。そのためには、完成車メーカーなり、部品メーカーなりが主導権を握って、擦り合わせの要素をモジュールの内部に押し込めて、モジュール単位の標準化の度合いを高めなければならない。しかし従来のモジュールは、前述したように各社(各グループ)ごとに最適化されているので、そうした動きを作り出すのは難しい。さらに、従来モジュールは機械部品の比率が大きく、立体的なサイズや素材の違いなどの物理的な擦り合わせ要素を完全にはカプセル化することが難しく、モジュール間で擦り合わせ要素が残ってしまいがちだという事情もあると思われる。

 もちろん、擦り合わせ要素を残したままでも、外部調達や水平分業化を進めることはできないわけではない。例えば中国では、本来互換性がない部品を外部から調達して、それらを無理やり組み合わせるというクルマの造り方をしている。しかし、無理やり組み合わせている分、安全性や環境対応などのクルマに本来求められる要求性能が十分には満たされないという問題も抱えている(関連のコラム)。