前回は、Liイオン2次電池電気の進化によって電気自動車の未来が大きく開けつつあることを述べた。『未来予測レポート 自動車産業2009-2025』ではそれを前提に、例えば「三輪車」(トライクル)が電気自動車の標準形になる可能性について言及している。タイヤが4つあると、どうしてもエンジン車のイメージを引きずってしまう。だが、タイヤが3つになれば、いやでも新しいスタイルを考えざるを得なくなる。こうすれば、これまでの自動車の概念に縛られない、全く新しい輸送手段としての電気自動車が誕生するのではないかと考えたのである。

電気自動車をリードするのは中国?

 実際に、電気自動車の大ヒットは四輪車ではなく、まず二輪車の世界から出てくるのではないかと予想している。業界的にも概念的にも二輪車と四輪車は全く別のものである。特に安全性については法的規制が違うため、メーカーの考え方や求めるレベルが根本的に違う。エアバッグだらけの四輪車を基準に考えると、生身の体を晒して走る二輪車など「とんでもない」ものだろう。

 だが、これまで二輪車を主に乗ってきた新興国の人々からすれば、先進国基準の車はオーバースペックと感じかねない。その間隙を縫って登場したのがインドのTata Motors社が開発した「ナノ」である。この超低価格車は、「スクーター2台を横に並べて屋根を付ければ30万円以下で車が作れる」という発想から生まれたものだ。形こそ四輪車だが、発想は二輪車の延長にある。新興メーカーの強みは、先進国の自動車メーカーには踏み込めない聖域である「安全性」で割り切りができることだ。

 中国では電動バイクの普及が本格化しており、2008年だけでも2000万台が生産されたとの推計がある。中国の現行法では、電動スクーターは免許もナンバーも不要、ヘルメットも要らないとされており、その手軽さが普及を後押ししているようだ。中国内だけでもこれほど膨大な数が生産されれば、現地の二輪車メーカーや2次電池メーカーが当然力をつけてくる。次は「ナノ」と同じ発想で、電気自動車を作ろうとするのはむしろ自然な成り行きだろう。電気自動車が主役になると、中国メーカーが業界トップに躍り出る可能性は十分考えられる。