前回、現在の大不況は構造変化に起因するものであるから、短期に回復することはないとの見通しについて解説させていただいた。このことは多くの産業に重大な影響を与えるが、自動車産業に絞ってみれば、これとは別の構造変化が覆い被さるように進行している。

 それが、「脱化石燃料車」の動きである。『未来予測レポート 自動車産業2009-2025』では、その本命を電気自動車とした。もちろん理由は多々あるのだが、その説明はレポートに譲り、ここでは重要な要素であるリチウムイオン電池、そして電気自動車の今後について、最新状況を踏まえて考えてみたい。

1分半で充電

 筆者が特に注目しているのは、未来予測レポートでも従来とは一線を画する2次電池として取り上げた、東芝のSCiBである。この4月には、新型のハイブリッド車向けのものが発表になったが(関連記事)、最短1分半というごく短時間で充電が可能になっている。出力密度も世界最高の3900W/kgと同社従来比で約4倍。万が一潰れても爆発する危険性はないともいう。耐久性や低温での動作性能も高い。実際の応用例はまだないのであくまで確認できないが、スペック通りの性能が製品で発揮できれば、これまでリチウムイオン電池の弱点と言われていた問題はほぼ解消できるのではないかと思う。実際、SCiBの関係者に「値段以外に問題はないんですか」と尋ねてみたが、「電圧が若干低いこと以外、特に弱点になりそうなことはない」と断言されていた。

 SCiBは現状ではまだ割高であるが、何か高価な材料を使っている訳ではない。生産量が拡大すればスケールメリットが期待できるだろう。重要なのは、すでに量産技術まで確立されており、実際に手に入る状態になっているということだ。やがて他メーカーからも同等性能の製品が出てきて、リチウムイオン電池は短時間充電であることが常識になるだろう。新しい時代が始まったのである。

 こうしたリチウムイオン電池の量産化が実現したことで、「自動車の未来は『電気』が主流になる」という、レポートで提示した未来像が現実に近づいたという思いを強くしている。ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車はあくまでも過渡期のものに過ぎない。自動車の未来は「二次電池」と「モーター」にあるということを改めて強調しておきたい。