1980年代に半導体メーカーは社内に製造装置部門や設計ツール部門を抱えていたが,売上高とのバランスが取れずに外部へ放出,これによって半導体の水平分業化が進み,製造/設計技術力の社内留保が難しくなったという歴史がある。つまり,技術を流出させないためにも規模を持つことが重要であることが分かる。そして,現在の部材メーカーはこの規模を持つことができている。

部材力は安泰か

 それでは,この部材力は,今後も安泰なのだろうか。ここへきて,部材力をさらに高める動きが活発になっている。部材メーカーを含む多くの研究機関は,新たなる部材の革新にまっしぐらだ。物理・化学の基礎に立ち返り,これまでの常識ではあり得ない材料を開発しようとしている3)。「屈折率が負」などの特性を示す“左手系メタマテリアル”はその典型である。1970年代に登場した各種技術が現在のエレクトロニクス産業を支えていることを考えると,現在生まれている新材料が今後の10年,20年をつくり出すことに期待したい。

 日本の企業が強い部材力を今後も継続的に伸ばしていく際に,問題になりそうなのは中国の存在である。中国は多くの原料・素材を押さえており,「これを強みに部材の製造技術力を日本企業に求めてきた」とある部材メーカーは危機感を示している。

図2 付加価値を示すスマイル・カーブ
図2 付加価値を示すスマイル・カーブ (画像のクリックで拡大)

 このことから,日本は部材力をもっと強化すると同時に,部材以外の部分で強い産業をつくるべきという指摘が当然のように出てきている。いわゆるスマイル・カーブの右側である(図2)。機器の付加価値を支えるこうした技術の開発は世界各地で進んでいる。現在の勝者は明らかに米Google社などだが,3年後,5年後の勝者はまだ決まっていない。

望月 洋介
参考文献
1) 大石ほか,「部材メーカーがますます強くなる」,『日経エレクトロニクス』,2006年5月22日号,no.926,pp.75-95.
2) 枝ほか,「いまこそ世界へ」,同上,2006年4月10日号,no.923,pp.79-115.
3) 浅川ほか,「研究開発 物理に還る」,同上,2006年1月2日号,no.916,pp.65-104.