東京に電話した研究者のメーカーも似たようなソフト・エラーを高速バイポーラRAMで経験していた。しかも,宇宙線ではないかと目を付けていたという。

 DRAMに戻ろう。となると,記憶に十分な電荷を確保した上で微細化しなくてはいけないことになる。

選別でなく製品に作り込む

 LSIは微細化に伴い,これまで以上に誤動作や故障に対する備えが必要になったのである2)。微細化によって湿気や静電気など外的要因にも,放っておけば弱くなる。追い求めるのは高性能だけではない。その上で必要十分な信頼性を適切なコストで確保しなければならなくなった。

 ものづくりに長けた日本メーカーはこれをクリアした。

 概して欧米メーカーが選別に頼ったのに対し,日本メーカーは品質を「造り込む」ことを身上としてきた。不良の原因を突き詰め,それを製造技術に帰還させ,不良品を減らした。これを製造工程全般に徹底させる。製造不良を減らすことは市場不良を減らすことにも通じる。こうして自動車や家電品などは欧米市場で高い品質を評価された。1970年代には既にメード・イン・ジャパンは安価・高品質の代名詞になっていた。

 半導体も例外ではなかった。不良を減らすこと,すなわち歩留まりを上げることに加え,市場不良の原因をつかみ,製造技術に反映することで信頼性を確保した。

 こうしたやり方は当時,必ずしも欧米で理解されなかった3)。まともに評価されるには欧米メーカーの反撃までしばらく待たねばならなかった。

 もう一つ付け加える。

 日本メーカーは早くからCMOS LSI技術に取り組んでいた。時計用のチップがそれだ。携帯用の電子機器が得意な日本メーカーに低消費電力のCMOSはぴったりだった。しかも,雑音余裕度が高く,擾乱に強い。1980年代にほとんどのLSIがCMOSになったゆえんだ4)

岡部 力也
参考文献
1) May,T. C. et al.,「ダイナミック・メモリーにおけるソフト・エラーの物理的メカニズム」,『日経エレクトロニクス』,1978年11月27日号,no.200,pp.123-139.
2) 「創刊200号記念特集ICの信頼性」,同上,1978年11月27日,no.200,pp.68-269.
3) Cunningham,J. A., 「日本製半導体製品の信頼性への疑問」,同上,1980年6月9日号,no.240,pp.54-55.
4) 岡部ほか,「LSIの全分野に手を広げるCMOS」,同上,1982年6月21日号,no.293,pp.111-230.