前回は,情物一致を図ることを目的に,既存の各種製品データを基にして,品目マスターを設計するための基礎知識を説明した。今回は,製品・ユニット・モジュール・部品に対して,共通化・標準化のアプローチをすることで,リコールを直接的に減らすための考え方を紹介する。

限られた設計資源で品質向上を図るには

 リコール対応において,第2回で解説したような遡及の仕組みがあれば,素早く対応はできる。しかし,それはあくまで対応時の仕組みであって根本的なリコール対応ではない。遡及の仕組みを作り,そこに既存データを再構築していくデータクレンジングは,既存の各種製品データを基にする以上,製品群や部品そのものを整理するわけではないから,リコールが減るわけではない。では,リコールを減らすための品質向上のためには,そもそも何をどのように行う必要があるのだろうか。

 それはユニット・モジュール・部品と,その組み合わせである製品の品質を向上させることだ。品質向上のためには,設計資源(ヒト・モノ・カネ)を投入するが,無限ではない設計資源を,増え続ける新製品開発や新規部品採用に対して十分に投入できるわけではない。貴方の会社でも,品質向上活動は日常的に行われているはずだ。しかし筆者は,実際に設計部門において,品質向上施策は根性論で行われていることが多いと感じている。全国の工場を訪問するが「●●部における設計責不具合件数半減!」や「品質向上月間」などの張り紙をよく目にする。しかし,実際に設計部門にいくと,品質向上施策は根性論で行われていることが多い。増え続ける製品やユニットのバリエーションに対して,恒常的かつ形骸化した品質向上活動,部門長の思いつき的改革活動などを実践することに,設計部門は疲弊しているのではないだろうか。

 そもそも対象となる製品・モジュール・ユニット・部品の数が多すぎたり,対象がよく分からなかったりして,場当たりな品質向上活動になっていないだろうか。品質向上に対して有限の設計資源を有効に配分するためには,その対象を上流工程で絞り込む逆転の発想が必要だ。そうすることで,設計資源割当の選択と集中が容易になり,品質向上活動が実りあるものになるのではないだろうか。

 絞り込みのためのアプローチは,種々考えられるが,製品のプラットフォーム・モジュール化,部品の標準化などの標準化設計アプローチが一般的だ。まずは,部品の標準化から考えてみよう。

部品標準化の方法論

 設計者は創造を担う。それ故,本質的に流用よりも新規設計を好む。「ちょっとここを変えて」とか「もっと良くしよう」とか,個別最適化を図っていく。もちろん設計観点で言えば,最適化された設計というものは美しい。しかしその裏でどんどん部品のバリエーションを増やしていることに気づいているだろうか。新製品の開発などのタイミングで新規部品の採用が多発し,データが無尽蔵に増えていくケースが後を絶たないようだ。

 この増えたバリエーションが見えないものだから,無法地帯化してしまう。ふと気づくと,同じ技術仕様に対して,些細なバリエーション違いが山のように発生してしまう。これは,生産側にとっては大問題だ。

 例えば,筆者がコンサルティングしたことのある企業では,ナイロン製の締結部品を,長さが微妙に違うだけで10種類以上在庫していたことがあった。さまざまな設計者がそれぞれの製品に最適な長さを設計した結果だった。このときは,現場から「統一できるのではないか」という指摘を受け,部品の標準化を行ったようだ。

 誰かの気づきで,その都度対応していくことももちろん大切だ。しかし,そもそも部品のバリエーションが「見える化」され,その増加に歯止めを掛けるルールや仕組みがあれば,初めからバリエーションを抑えられるのではないだろうか?新しい部品が無尽蔵に増えていくことは,リコールの温床となるばかりでなく,システムから探すことも難しくなり,リコール発生時に問題が大きくなる要因となる。拡散し続ける部品そのものの整理をしておくことは,次に投入される新製品を構成する各部品の増大も抑制できる。

 これを可能とする情報システムが,前回も紹介した品目マスターであり,さらにその中でも品目分類の整備による標準部品・推奨部品を関係者がガイドする仕組みが有効だ。今回は,品目分類の考え方を紹介しよう。

品目分類とは?